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ラケオはどこに消えたのか。何も持たないまま。家に帰っても、彼が戻ってきた様子はない。
「……ラケオ」
自分がしでかした間違いに、ディヴィアンはうろたえ始めた。なぜあんな風に当たり散らしてしまったのだろう。悪いのは全部自分だったのに。
ディヴィアンはラケオを探して、町の周囲を数日間さまよい歩いた。街道沿いの雑木林や、橋の下なども探索してみる。どこかで野宿でもしているのではないかと、狼や野犬のいる森にまで足を踏み入れた。しかしどこにもラケオの影はなかった。
「一体どこへいってしまったんだ」
もう五日になる。まさか町を出たのか。それともどこか谷や沢で命を落としでもしているのか。想像するだけでいても立ってもいられなくなり、目的地もないまま幽霊のようにおろおろと昼も夜もさまよい歩いた。
六日目は雨だった。けれどディヴィアンは構わず終日ラケオを探し回った。ざあざあ降る雨に打たれながら、寒さも感じずにただひとりの相手を求めて、もしかしてと思える場所を練り歩く。だが何の成果もなく、夜もふけたころ、ディヴィアンはとぼとぼと丘の斜面を失意の内にのぼっていった。
雨はまだやまない。視界は真っ暗で、丘の輪郭だけがぼんやりと見て取れる。絶望しながら進んでいると、家の近くの、草っ原に誰かがたたずんでいるのがわかった。背が高く、しっかりとした身体つきの、あの人物は――。
「……ラケオ」
ディヴィアンは急いでその影に走りよった。
「ラケオっ!」
声に応えて、影が振り返る。ああやっぱりラケオだ。やっと帰ってきてくれたのか。ディヴィアンが近くまでいけば、濡れそぼった相手はぼんやりとこちらを見返してきた。
「……アン」
暗闇でもよくわかる。ラケオは疲れてげっそりとした様子だった。目の下にはクマがあり髭もうっすら生えていた。
「……ラケオ」
帰ってきてくれたことが嬉しくて、どう声をかけていいのかよくわからない。雨がふたりの代わりにざあざあうるさくしゃべっていた。
「……今までどこに――」
小さな問いかけが途中でさえぎられる。
「さよならを言いにきたんだ」
「えっ」
思いがけない言葉に驚く。
「最後に、お世話になった挨拶だけはしていかないと、いけないと思って」
「な、なんで?」
目を剥くディヴィアンに、ラケオが暗い表情で続けた。
「今までありがとう。僕は町を出るよ」
「そんな、いきなり、どうして」
出ていくなんて言い出すんだ。震え声のディヴィアンにラケオが悲しそうな顔になった。
「だって、アンが、出ていけって言ったから」
「……え」
そうだったろうか。
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