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「もしかしたら、僕、いつのまにか、アンの成長を越えちゃったのかな」
明るい言い方に、ディヴィアンは瞳を伏せた。
そうか、この青年はもう自分より大人になってしまったのか。
「アンは見た目よりずっと成長していないんだね。寿命はいくつなの? 生まれたのは何年前?」
「その話はするな」
寿命云々を、今は語りたくなかった。
「ごめん」
ラケオの指が、ディヴィアンの毛布から離れていく。
「僕は、あなたを困らせている?」
少し心細げな声音に、ディヴィアンは顔をあげた。
すると相手と視線が絡んだ。ラケオは微笑みを湛えたまま、悲しげな瞳でこちらを見つめていた。
「まさか。そんなことはない」
「じゃあ、僕のことを未だに手のかかる子供だと思ってる? 扶養する義務はとっくに終わってると思うけど、そばにいてもいいと言ってくれるのは優しさから? それとも同情?」
ディヴィアンはどうしていきなりそんなことを言い出すのかと困惑した。
「五日間、森の中にこもって考え続けたんだ。僕が、あなたのそばにいることを許されている理由は何なんだろうって」
「……許す理由?」
許すも許さないも、そんなつもりはない。ただ、いて欲しかったから、一緒に暮らしていただけだ。
「理由がなければ、そばにいてはいけないと思った。あなたの幸せのためにも。そうしないと、……つらいから」
ディヴィアンは何度も瞬きをした。
「許される理由がなければ、お前は私のそばにいるのがつらいのか」
「うん」
「なぜつらい」
ラケオの毛布に触れる。そっとうかがうように。けれど身体の中では未知の感情がわきはじめていた。答えを知りたい。自分の何が彼を苦しめるのか。それは未だ踏みこんだことのない、ラケオの心の領域だった。
こちらに顔を向けた相手の瞳に、暖炉の火が反射する。そのせいか光彩が燃えているように輝いていた。目をあわせたまま、ラケオは静かに、熱く語った。
「アンが、いつか誰かと寝るのなら、その相手を知りたくてたまらないから。たとえ僕の命が尽きた後でも、誰かと夜と共にすごすのなら、相手を知りたすぎるから、つらいんだ」
言い終わると、口元をゆがめるようにして笑う。詮ない望みをぶつけてしまい、自分の愚かさを笑っているように見えた。けれどディヴィアンはその表情に胸がつまった。
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