第4章 四年目*

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「私は、誰とも寝ない。寝たいとも思わない。絶対に」  お前以外とは。心の中で続きを告白する。口にする勇気はなかったから。  ラケオは大きく目を見ひらいた。予想外の言葉を聞いたという顔をする。  凜々しい表情を険しくして、グッと身をよせてきた。 「夢を見た相手は誰?」 「えっ?」  いきなり問われて裏返った声が出た。 「相手がいるから夢を見て、夢精したんだろ。そいつがアンの想う奴だ。誰とも寝たくないならそんな夢は見ない。じゃあ相手は誰だったんだ?」 「……」  それはいささか乱暴な理論ではないか。と思ったが同時に納得もした。確かに夢は見ていたから。そして相手は明らかに、疑いなく――想う相手に違いなかったから。  ラケオが両手で、ディヴィアンの手首を強く掴んできた。グッと引きよせられて、荒々しい仕草に心臓が高鳴る。 「アン」  端正な顔が間近にせまり、吐息が唇に触れた。体温のこもった微風が、胸を痛いほどこがす。 「相手は誰?」  視線の鋭さに、自分の中にある固くて融通の利かない壁が崩れ落ちていく。  好きな相手。それは――。  あふれる想いは自然と口からこぼれ出た。 「……お前だ」  言葉にして、答えを与えられる。  ラケオの黒い瞳が、ゆっくりと濃さを増した。嬉しいような哀しいような、複雑な笑みを浮かべたと思ったら、ディヴィアンを床に押し倒した。大きな両手が、ディヴィアンの頬を包みこむ。 「アン」  ささやきながらそっと唇に触れてくる。興奮に身体中の皮膚がピリピリした。 「……ラケオ」  出会ってから何度も言葉を交わし、食べる姿を眺め、笑ったりすねたりしゅんとしたりする様子を毎日のように見てきたけれど、キスをするには距離があった。その距離がなくなって、自分の口で相手の口を撫でると、もう会話は必要なく、全てが薄い皮膚を通じて伝わるようだった。  ――ラケオが好きだ。誰よりも。 「あなたが好き」  そして相手も同じ気持ちでいる。  ――ああ、そうか。そうだったのか。  ふたりして同じものを抱えて生きていた。  ラケオは毛布を剥ぎ取った。乱暴に放り投げて素肌を重ねあわせてくる。熱く乾いた感触に喉元がわななけば、キスは深くなった。喘ぐように口をあけると、相手も喘ぎながら舌を押しこんできた。
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