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「あなたのことを教えて」
ベッドの中でラケオが言う。
久しぶりに一緒の寝床で横になり、裸で身をよせあっていた。大の男ふたりにディヴィアンのベッドは狭すぎたけれど、お互い気にならないほど心地いい空間だった。
ディヴィアンは自分の頭を支えているのがラケオの腕だということがまだ信じられないでいた。
「私のことを?」
「うん。あなたのことが知りたい。どこで生まれて、今までどんな人生を送ってきたのか」
そう言えば、自分の過去はほとんど語ったことがなかった。
「別に大した話はないが」
そう前置きをして、記憶をたどってみる。一番初めの思い出は何だっただろうか。
「……私は、遠い国の小さな町で生まれた。両親は雑貨屋を営んでいて、私はひとりっ子だった。平和で穏やかな子供時代だったが、あるとき戦争が起こった。私たちは故郷を捨てて別の国に逃れることにした。その途中、難民らを乗せた荷車が、山を越えている最中に崖から落ちた」
そのときディヴィアンはまだ物心がついたばかりだった。
「荷車に乗っていた難民はほとんど死んでしまった。私の両親もだ。さいわい母に抱きかかえられていた私は軽傷だった。もうひとり、生き残った年老いた寿命判定師がいて、彼が私を助けてくれた。そうして私は、彼に育てられることになった」
老いた判定師は優しい人だった。彼は、ディヴィアンがこれからの長い人生を自分の力で生きていけるようにと、自分の持つ技術を伝授したのだった。
「老判定師と暮らしたのは数十年だったろうか。彼の寿命が尽きた後は、ひとりで判定の仕事をしながら、各地を移り住む生活をしてきた。ここにきたのもお前を引き取る一年前だ」
ラケオがこちらを向いた。
「どうして、ひとところに住まないの?」
ディヴィアンはチラとラケオを見て、それから天井に目を移した。
「同じ場所に長い間住むと、生きることに倦んでくるんだ。だから定期的に生活を変える」
そう言って目をとじる。ここのところラケオを探して歩き回っていたせいか疲労がたまっていた。それに加えて、先ほど思いがけない体力の消費をしたから会話が途切れると一気に眠気が襲ってくる。意識がすうっと落ちていく感じがした。
「じゃあ、海とか、高く連なる山脈とかも見たことあるの」
ラケオが話しかけてきたが、ディヴィアンはもう夢の中だった。――うん、と答えたどうかも定かではない。相手がどう答えたかも聞き取れなかった。
翌朝、目を覚ますと、ラケオがディヴィアンの手のひらを持ちあげて朝日にかざしていた。寝室にはひとつだけ小さな窓があり、そこからベッドに陽が落ちてきている。白く眩しい光は、ディヴィアンの肌をさらに白くしていた。
「……何してる」
寝起きのぼんやりとした瞳で、自分の手のひらと、それを掴む日に焼けた手を眺める。
「きれいな手だと思ってさ。見とれてた」
隣の男が答えた。
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