第4章 四年目*

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「とても美しくて複雑な血彩だ。僕は判定師じゃないからよくわからないけれど、こんな繊細で芸術的な模様は見たことがない」  そうしてディヴィアンの手をなでる。 「アン。教えて。あなたの寿命はどれくらいなの」  ディヴィアンは口元を皮肉に持ちあげた。  昨日の雨が嘘のように、今朝はよく晴れている。暖かないい一日になるだろう。今日からまたラケオと一緒に暮らすことができるのだ。嬉しくて、そして同じほどの哀しみが胸を満たした。 「私の師匠は、私の血彩を正確に読み取ることができなかった」  ラケオがディヴィアンの手をそっとおろした。ディヴィアンは自分の手を胸の上においた。 「じゃあ、生まれたのは何年前?」 「三百年ほど前。だから私の寿命は多分……千年、あるいはそれ以上と思われる」 「すごいね」  純粋に驚いた声をあげる。 「そんなに長く生きる人は他にいないんじゃないの」  ラケオの問いにディヴィアンはうすく笑った。 「私が判定してきた中には、ひとりもいなかったな」 「聞いたことないもんね。アンは特別な人なんだ」 「そう。特別に不幸なのさ」  ゆったりと微笑めば、ラケオが寝返りを打ってこちらに身体を向けた。 「不幸なの?」  ディヴィアンは目をとじた。 「皆、私をおいて去ってくから」  だから人と深く関わることを避けてきた。誰かを好きになったりもしなかった。ずっとひとりで生きていこうと決めていた。ラケオを知るまでは。 「長く生きれば、それだけ色々なことができて楽しいと思うけどな」 「そんなことはない」  大切な人がだんだんと歳をとり、老いて縮んで、やがて死んでいくのを見るのは並大抵の悲しさではない。ディヴィアンは師匠を看取ったときにそれを経験した。そして老いていく側も、いつまでも若さを保ったままの者に対し、深い断絶と憧憬を覚えるのだろう。死に怯える苦しみがひしひしと伝わってくるから、送る側もつらいのだ。 「アン」  ラケオがディヴィアンの長い髪を手で()かす。この青年と、共に歳を重ねられたら。どんなによかっただろう。そう考える。できることならラケオがこの世界を去るとき、一緒に逝きたい。不意に泣きそうになり、ディヴィアンは顔をしかめた。  そんなディヴィアンにラケオは優しく語りかけた。
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