第4章 四年目*

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「長く生きる人の苦しさは僕にはよくわからないけれど、人が羨むほどなら、きっと価値があるんだよ」  ディヴィアンが目を向けると、そこには愛情に濡れた瞳があった。  長すぎる寿命に、価値とか意味とかを考えたことはない。自分の人生も、この青年が死ぬときに一緒に終わればいいと思う。できればそうしたかった。ひとつの棺桶に入れてもらって、一緒に永遠の眠りにつく。それは甘美な想像だった。 「ねえ、アン」  ラケオはディヴィアンの金髪を一房つまんで言った。 「あなたに、ひとつお願いがあるんだ」  涙がにじんだ眼差しで、何だ、と問う。それに相手は微笑んだ。 「僕はこの町で生まれて、ここ以外の場所を知らないだろ。きっと、この先も、別の土地を知らずに人生を終えるんだと思う」 「何だ? どこかに引っ越しでもしたいのか」  それとも旅行にでもいきたいのか。そう言えばラケオと遠出をしたことはない。 「ううん。違うよ。僕はここが気に入ってる。アンと出会って、毎年ほほえみ草をみながら暮らす生活が大好きなんだ。ここ以外の場所に住みたいとは思わない」  ディヴィアンは瞬きを繰り返して涙を引っこめ、ラケオと向きあった。 「けれど、本で見た他の場所に憧れもあるんだ。だから、僕がこの地からいなくなったら、アン、あなたが代わりに、色々な場所を見てきて欲しい」 「……」 「青い海や、高い山。熱い砂漠に、凍った大地。物語の本には空を飛ぶ船や、黄金や機械でできた街のことも書いてあった。そんな世界中の不思議な景色を見てきて欲しいよ。そしてそれを、いつか、どこか知らない場所で、僕と再会したときに教えて欲しいんだ」  ふいに鼻の奥がツンと痛くなった。  得体の知れない悲しみが腹の奥からせりあがり、ディヴィアンは息をとめた。 「お願い」  ラケオの眼差しは静かだった。月のない夜空のように。 「あなたの寿命が尽きるまで、世界の果てを見てきて」  そして金髪に口づける。 「空を飛ぶ船や、機械でできた街なんて、作り話にすぎないだろう……」 「それでもいい。見てきてよ」  涙がまだあふれてきた。とめようにもどうにもとまらなくて、優しい絶望に頬が濡れる。  それを誤魔化そうと、ディヴィアンは俯いて小さくうなずいた。 「……うん。わかった」 「ありがとう。アン。愛してる」  静かなささやきが、彼自身の安堵を伝えてくる。  絵空事のような願いはいかにもラケオらしくて、ディヴィアンは彼の腕の中で声を押し殺して泣いた。
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