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ほほえみ草は、きちんと約束を守るように、毎年丘に春をもたらした。花が咲けば、庭にテーブルと椅子を持ち出して、薄黄色の花をながめながらお茶をするのがふたりの恒例行事となった。
穏やかな時間だった。風は爽やかに吹きそそぎ、陽光は柔らかく、鳥たちは姿を見せずにさんざめく。どこで鳴いているのかその姿を見つけるのは難しい。
ラケオは決まってディヴィアンの容姿を褒めた。花のように美しいと。
ささやかでも幸せな生活には目立った事件もなく、青年は壮年になり、人より早く年をとり、やがて立派な老人となった。ラケオは努力した方だと思う。酒も飲まず、食事は適度にすませ、身体を鍛え、健康には人一倍気をつかった。
時をとめるすべはない。長生きするための薬も呪術も、子供だましの効果しかなかった。
ディヴィアンが判定した寿命は二十年。
けれど、彼は二十一歳まで生きた。
春を待つ雪どけのころ、今年のほほえみ草は無理かなあとつぶやいた白髪の男は、歳の割には艶のある手をディヴィアンに握られながら、地上での短い滞在を終えた。
「ありがとう。幸せだったよ。アン、愛してる。あなたが未来でもっと幸せになれますように」
そうささやいて静かに目をとじる。
ラケオは最後まで、ディヴィアンの行く末を案じていた。
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