第6章 長い不在

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 人は火星(マルス)にまで宇宙船(うちゅうぶね)を飛ばしたらしい。勇気ある者はそこに居を構え新たな生活を始めたという。遠い昔、ラケオが語った『空を飛ぶ船や、機械でできた街』は作り話ではなくなった。彼の言った世界の果てはもしかして宇宙の先かと、ディヴィアンは夜空に輝く星々を見ながら考えた。そこまではさすがに行けない。  しばらくして、ディヴィアンのもとに一通のしらせが届いた。それはディヴィアンが生まれた国からだった。祖国はまだ存在していたようだ。手紙には、長寿のディヴィアンを国宝として迎え入れたいと書かれていた。ぜひ長寿の秘密を解明し、人々の生命の発展のために協力して欲しいとある。ディヴィアンはそれを断った。興味がなかったからだ。ラケオがよみがえらなければどんな研究も関心がない。  ディヴィアンの知らないところで人類はどんどん活動範囲を広げ、あるとき海王星(ネプトゥーヌス)の近くで未知の生き物と接触(コンタクト)した。その生き物と人間は戦争をしたり和平を結んだりして数百年をすごし、最終的に友人となった。彼らの技術は時間をかけて人間世界に浸透した。素晴らしく発達したものもあったが、死んだ人間を生き返らせる方法だけはなかった。どれだけ進化しても、死後の世界は解明されないままだ。ディヴィアンは失望し、まだ生きている自分自身を呪った。  星はいつも変わらず輝き続けている。人間国宝になって欲しいという知らせは定期的に届く。報酬は目玉が飛び出るほど高額だった。  新たな生き物は『星人』と呼ばれ、最近では普通に町中を闊歩している。彼らは友好的で、奇抜な見た目で、発想が突飛で、面白い性格をしていた。  時間はとまらずに流れている。いつも同じ早さで。多分自分が死ぬまで。  世界の至るところを見て回るのも疲れたころ、ディヴィアンはある日、街角のベンチに腰かけていてひとりの星人と出会った。暇に任せて会話をしてみると、存外面白い話を聞かせてくれる。彼らの頭の中は常人には理解できないほど複雑怪奇で、意味不明で、希望に満ちていた。  それでも話が楽しかったディヴィアンは久しぶりに笑って、彼と別れた。  そうして、ひとりになると、とある決断をした。
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