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第7章 永遠*
かつて二十年ほど暮らした丘に戻るのは千年ぶりだろうか。丘にはもう、ほほえみ草は一本もなかった。道はすべて瀝青で平らにされて、空まで届きそうな鋼の塔が乱立していた。青い空は、建物の隙間からほんのちょっぴりしか見えていない。
丘の天辺と思われる場所に、古い集合住宅が建っていた。その一階の小部屋をディヴィアンは購入した。部屋の真ん中に、新品のベッドをひとつだけおく。
数百年ぶりに髪をきれいに整えて、服も新調する。それからベッドに横たわった。手の中には、星人に教えてもらった高価な機械がある。球のように丸くて、何やら複雑な文様が刻まれた不思議な物体だ。それを握って、ひとつ深呼吸をした。
「……」
ボールについた釦のひとつを押す。
すると、球体は電気能を放ち、部屋の中が真っ白く光った。あまりに明るく輝くので、ディヴィアンは目を瞑った。自分がどうなるのか全く予想がつかない。未知の機械はブルブル震えていまにも爆発しそうだった。
身体を強ばらせてそのときを待っていると、やがて身体がふっとかるくなって、魂が飛び出る感覚がきた。
ぐるぐる、ぐるぐる、意識が回る。そして、落ちていく。ぐるぐる、ぐるり――と。
酔いの感覚がなくなるまでしばらく待ってから、そうっと用心深く目をあけた。
光は消えていた。その代わりに、目の前には懐かしすぎる光景が広がっていた。
使い古したベッドにチェスト。
白い花瓶と、読みかけの本。
すすけた燭台に、そこに刻まれた模様。
記憶の底に忘れ去られていたものばかりだ。壁の小窓からは、明るい日が差しこんできている。
「……ああ」
ディヴィアンは昔の自分の部屋に立っていた。
ため息を漏らし、感動に打ち震える。涙が滲んで、胸が苦しくなり、倒れそうになった。
「本当に……」
全てそのままに、確かに存在している。
窓際によろうと歩き出したら、ドアがガチャリとあいた。そして人が入ってくる。
「――あれ? アン」
かるい調子の声音に、総身がわなないた。振り返れば、そこには、長年会いたくて、会いたくて、たまらなかった相手が立っていた。
「どうしたの? 出張にいったんじゃなかったの」
驚き顔の若いラケオは、ディヴィアンの姿に、目を大きく見ひらいた。
「何その奇抜な格好?」
「……ラケオ」
千年ぶりの邂逅に、伸ばした手が震える。本当に、本物の彼なのかと、よろよろとよろめきながら近づいていけば、ラケオは不審げな顔でじっとディヴィアンを見つめた後、伸ばした手を握って言った。
「……あなたは誰? アンなの?」
「そうだ。私だ。ディヴィアンだ。お前に会うために、未来からやってきたんだ」
「未来から?」
ラケオはまじまじとこちらを眺めた。頭の天辺から足の先まで観察して、信じられないという表情で問いかける。
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