第7章 永遠*

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「いや、それはない。星人の理論では、過去に戻るとその時点で、時間の流れがふたつに分岐するんだ。本流――つまり最初の時間の流れは時間遡行に汚染されない。私が過去に来ればそのつど、あらたな分岐が発生するだけなんだ」 「ふうん……。何だか難しいね」 「ついでに言うと、ここにいる私も、本体ではない。本体は千年後の世界で、小部屋のベッドで眠っている。意識だけが過去に飛ばされてきているんだ」 「そうなの?」 「肉体は運べないらしい。けれど星人の科学技術は優秀で、私の肉体までもがここにいるように振る舞うことはできるんだ」 「へえ」  ラケオはディヴィアンの身体に触れてきた。 「じゃあ、することはできるんだ?」  それにディヴィアンは慌てて言い足した。 「べ、別にしたくて、それだけが目的できたわけじゃないぞ」 「恋人はいたの? 未来に」  大きな手が意地悪な動きをする。 「いるものか。お前だけだ」 「千年もひとりで?」 「だって、お前が言ったから、いつかどこかできっと再会すると。そのときに浮気を疑われたら嫌だから。だから他の恋人なんか作ってない」  本当は作ろうとしたけれど、ラケオのことが好きすぎて作れなかったのだが。 「ふうん」  ラケオは信じているのかいないのか、それでも嬉しそうに微笑んだ。そうして手をディヴィアンの身体に這わせてきた。千年ぶりの触れあいに鼓動が早まる。 「けれど、未来の技術はすごいね。まるで魔法みたいだ。千年後の人は皆、こんな風に時間旅行ができるようになっているの?」 「いや。一般人はできない。時間遡行には莫大な金がかかるからな。規制も厳しいから、私も許可をもらうのに苦労した」 「お金はどうしたのさ?」  ラケオの手がとまって、心配げにたずねてきた。 「人間国宝になった。それで、長寿の研究に協力することにした。身体中調べられたり血を採られたり不愉快極まりないが、まあそれはしかたない」 「人間国宝に……」  驚き顔でディヴィアンを見てくる。 「すごいなあ、アンは」 「まあな。千年も生きていれば知識もたまる。歴史学者や言語学者など、各方面の学者に協力したりして、毎日それなりに忙しく暮らしている」 「……へぇ」  瞳に尊敬の色が浮かぶのを見て、ディヴィアンはいい気分になった。 「アンは国の宝物になったんだね」 「うむ」  自分はそんなものに全然なりたくなかったが、おかげでまたラケオに会えるようになったのだから長寿にも価値があったのだろう。 「そんなに忙しいのに、会いに来てくれてありがとう」 「うん」
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