第1章 一年目

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***  ディヴィアンの住み処は、丘の上に建つ小さな一軒家だった。周囲は一面の草っ原で、建物は他にひとつもない。そこをラケオの手を引いてのぼっていく。家に着けば、玄関先に若い男と女の子が立っていた。 「判定師様。娘の寿命判定をお願いできますか」  どうやら客人のようだった。 「ああ。いいだろう」  仕事場に入り、ラケオには部屋のすみの丸椅子を指して「そこにいろ」と命じた。幼い少年はすなおにちょこんと腰かけた。 「では、その子の名前と生年月日を」  ディヴィアンの仕事場は医師の診察室に似ている。以前の住人も寿命判定師だったこの部屋には、南側に大きなガラス窓があり、北側の壁一面には抽斗(ひきだし)がたくさんついた棚が設置されていた。その他に身体を測る道具がいくつかと、診察台がひとつ。ディヴィアンは棚の抽斗から羊皮紙を一枚取り出して、父親から聞いた娘に関する情報を書き留めていった。  それから女の子の身長と体重を測定し、窓辺にある小テーブルに座らせた。自分は対面に腰かけると、拡大鏡を使って少女の手の甲を丁寧に観察する。小さな白い手には、うっすらと血管の文様が浮き出ていた。それを羊皮紙に書き写していく。  一連の作業が終わると、顔をあげて父親に告げた。 「この子の寿命は百八十年です」 「そうですか」  父親は少しホッとした顔でうなずいた。 「よかったです。私は九十年と言われたので、長くてよかった」  ディヴィアンは書類にサインをして父親に手渡した。 「この子の母親は百四十年と判定されていたから、それよりも長かった」  父親の言葉に、少女が横から口を挟んだ。 「けど母さんは三十歳で死んでしまったわ」  父親が娘に答える。 「病気だから仕方がない。たとえ寿命が長くても、人は病気や怪我であっけなく死ぬものだ。お前も気をつけて生きていかねばならない」  ディヴィアンもうなずいた。 「そう。寿命はひとつの指針となるだけです。健康な生活をしていれば判定より一割ほど伸びますしね。あなたの未来に祝福を」  にっこりと微笑めば、少女は頬を赤らめた。
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