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代金をもらって、親子を戸口から送り出す。広い丘には、春に向かって黄色い花の蕾がふくらみ始めていた。緑の中に薄黄色の粒がたくさん揺れている小道を、大小の影が仲よさげにより添い小さくなっていく。ディヴィアンはその光景をぼんやり見送った。
この世界に住む人間は、ひとりひとり天から与えられた命の長さが違う。長い者は数百年生き、短い者は百年に満たない生しかない。それはほとんど運で決められていて、一生変わることはなかった。遺伝もしないし、環境にも左右されない。祈りも呪いも作用しない。この世の神の無情な取り決めなのだった。
ディヴィアンは仕事机に戻り、片づけを始めた。ふと目を向ければ、ラケオは大人しく椅子に腰かけてこちらを見ている。この子は言いつけをきちんと守り、仕事の邪魔もしなかった。存外育てやすいのかも知れない。
「お前は寿命を判定してもらったことはあるか?」
声をかければ、ラケオはふるふると首を振った。
「じゃあ、ついでだ。判定してやろう。こっちにおいで」
小さな少年は椅子をよいしょとおりて、ディヴィアンのところにやってきた。
「生年月日はわかっているか」
抽斗から新しい紙を一枚取り出し、『ラケオ』と書きこむ。
「しらない」
「そうか。まあ仕方ない。孤児院も焼けてしまって資料もないだろうし」
今日の日付を記入し、小さな身体の身長と体重を測定する。それから窓際の小テーブルに向きあって座った。手の甲に日光をあて、拡大鏡を使って調べていく。
寿命はその人の身体を走る血管の文様、即ち『血彩』を調べることで明らかになる。その数値は知識と経験を積んだ熟練者でなくては正確に導き出せない。ディヴィアンはもう長い年月を判定師としてすごし、この国では一定の信用も得ていた。
血彩は、主に手の甲を走る血管から読み取る。寿命が短い者は太く単純な模様で、長寿になればなるほど繊細で複雑な模様を描く。
「……」
ディヴィアンは痩せ細った小さな手の甲を見て、言葉を失った。
少年の寿命は、たったの二十年しかなかった。
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