第3章 三年目

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第3章 三年目

 日々はつつがなくすぎて行き、ラケオは大きな病気もせず、すくすくと成長した。  三度目の春にさしかかるころ、ディヴィアンはそんな彼にひとつの提案をした。 「物置になっている奥の部屋を片づけて、そこをお前の部屋にしようと思う」  夕食時にそう切り出す。ラケオはディヴィアンの胸くらいの背丈になっていた。彼がここにきて二年がたとうとしている。百歳換算で、もう十三歳だ。 「どうして?」  幼年期を終えて少年期にさしかかった養い子は、思いがけないという顔でこちらを見てきた。幼いころからの整った顔立ちは、最近少しずつ男らしさを増している。頬の輪郭はまだ子供のそれだったが、声は低くなり始めていた。  小さいときの面影が消えていくのを、ディヴィアンはなぜか日々惜しく思えて、ときおり意味もなく淋しくなることがある。健康的に育つ姿はほほえましいが、同時に何とも言えない空しさも覚えてしまうのだ。そんなときディヴィアンは、ああやはり幼い内に孤児院に返しておくべきだったかと後悔するのだった。しかし今更、出ていけというのは薄情だろう。 「お前もそろそろ自分の部屋が欲しいだろうから。ベッドも家具職人に頼んで作ってもらう」 「じゃあ、もう一緒に寝られないの?」 「あのベッドは窮屈だろ」  ディヴィアンの寝室にあるひとり用ベッドで一緒に寝るのは限界だ。それで寝室をわけようと考えたのだが、ラケオはなぜか反対した。 「そんなことないよ。ぜんぜん」 「私は狭い」  だからもう寝ないと伝えれば、ラケオは不満そうな顔になった。 「ひとりで寝たことない」 「では、慣れろ」 「ひとりは寒いよ」 「たくさん着こんでベッドに入ればいい」  命令すれば、相手はもう反論せず、黙って口を尖らせた。だから納得したのだとディヴィアンは判断したのだが、その晩ベッドにふたりで入ると、ラケオが背後から抱きついてきた。 「どうした?」 「……」 「ラケオ?」  じっと動かない相手を振り返る。 「もうちょっとしか一緒に寝られないのなら、いっぱいくっついておく」 「…………」  大きくなったと言っても、まだ子供だったのか。独り寝が淋しいとは。  ディヴィアンはため息をついて好きにさせた。するとラケオはディヴィアンの寝間着の、腹のあたりをギュッと握ってきた。 「こら、くすぐったい」  やめろと訴えるも聞いていない様子で、さらに身体を密着させる。そのせいで首筋に相手の髪が触れた。さらりとした感触と、ラケオ独自の匂いに眉をよせる。
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