第3章 三年目

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 幼いころのラケオの髪は、いつも日向のにおいがした。乾いた風と草っ原の、大地と空の香り。ディヴィアンはそれが好きで、眠ったラケオの頭にこっそり鼻をすりよせたりもした。  けれど今の彼からは、もっと違う匂いがする。青くて爽やかな、成長しつつある男の芳香が、未熟な身体から発せられている。そのことに戸惑った。 「アン」  小さなつぶやきが背後から聞こえる。いつもと同じ声なのに、なぜか首筋がぞわりと粟立った。 「……」  ディヴィアンが寝室をわけようとした理由はもうひとつある。それは、このムズムズした感覚が居心地悪いからだった。  どうして自分は、こんな子供の声に怖れにも似た感情を覚えるのか。肌が落ち着かなくなるのだろうか。  いささかの困惑を感じつつ、多分これはラケオの体温が高いせいだろうと結論づけた。温かすぎて、自分はこの子供を鬱陶しいと思っているのだ。いつも密着されて狭苦しいし、寝返りも打てやしない。だから苛立ちから身体が火照るのだ。  それなりに長く生きてきたディヴィアンだったが、他人に初めて与えられた刺激に、脳を総動員してそんな答えを導き出した。  数週間後、ラケオは個室を与えられ、しばらくすると満足した様子を見せるようになった。 「やっぱり自分ひとりのベッドは落ち着くね」  などと言う。ディヴィアンは「そうだろう」と相槌を打ちながら、原因不明のの空虚さも覚えていた。  おかしい。自分だってようやく伸び伸びと眠れるようになったのに。  ディヴィアンは広くなったベッドに横たわるたび、手が小さなぬくもりも求めて隣をさまようのをとめられなかった。  そのころから少しずつ、ディヴィアンはラケオを引き取ったことを、正体のわからぬ悲しみと共に苦しめられるようになった。
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