第1章 一年目

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第1章 一年目

 寿命判定師ディヴィアンのもとに、ラケオがやってきたのは彼がまだ小さな子供のときだった。 「孤児院が火事で全焼してしまい、院長も行方知れずになってしまいました。残った子供たちを町の住人で手分けして預かることになったのですが、どうか協力してもらえませんか」  町の世話役である男に頼まれて、ディヴィアンは露骨に嫌な顔をした。  人嫌いで人づきあいも苦手、まして子供など接したこともないひとり暮らしの自分が幼い子を預かるなど到底無理だ。 「できかねます」  と即座に断ったのだが、男はしつこく頼んできた。最後にはこの町で仕事を続けていきたいのなら協力してもらわないと我々もあなたと仲よくしていくことはできません、と脅しめいた言葉まで口にしたので、ディヴィアンは渋々、小さな男の子を引き取ることにした。 「ほんの数か月です。孤児院が建て直されたら、この子はまたあそこに戻せばいいですから」  その言葉を信用してむっすり顔で了承すれば、世話役は喜んで礼を言い、男の子をおいてディヴィアンの家から帰っていった。  窓から丘を下っていく男を見送って、薄汚れた子供に向き直る。じっと黙ったままぼんやり立ち尽くす子を見て、ディヴィアンは盛大にため息をついた。  子供はディヴィアンの膝上ほどの背丈だった。痩せ細り、ひどく汚れていて、目だけが釣りあげたばかりの魚のように怖いくらいまん丸かった。百歳換算で推定年齢は三歳といったところか。腹が減っているのか、ここにきてからずっと指をしゃぶっている。伸び放題の黒髪はべたつき、埃やゴミが絡みついていた。着ている服は襤褸雑巾(ぼろぞうきん)にしか見えない。多分、(のみ)(しらみ)が山ほど潜んでいる。  この子を自分の家におくのか、と考えただけでゾッとした。ディヴィアンはきれい好きだった。 「とにかく、人間らしくしないと」  預かったからには責任がある。子供は嫌いだが数か月の辛抱だ。この地で仕事を続けていくためには町の住人に恩を売っておかなければ。  ディヴィアンは台所で湯を沸かし、幼い少年を家の外に連れていって服を脱がせ、髪を全て切って剃った。それから(たらい)に湯を張って、少年をサボンで全身くまなく洗った。
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