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「父さんになんでも我が儘を聞いてもらってたベリンダに、わたしの気持ちなんて分からないわ!」
「そんなもの分かりたくもない! 初めから何でも持ってるくせに、自分には何もありませんって顔して被害者ぶって。アメリのそういうところ、わたし昔から大っ嫌いなのよ!」
いきなりの取っ組み合いの喧嘩に、周囲の人間が呆気にとられている。
中には囃し立てる者もいて、ふたりはますますエキサイトしていった。
「恵まれて育ったあんたと違って、わたしたちには何にもなかった! だからわたしもデボラ母さんも、欲しいものは自分の力で手に入れてきたわ!」
「だからってロランのことはひどすぎるでしょう!」
「欲しいモノは欲しいって言って何がいけないって言うの!」
「ロランはモノなんかじゃないっ! わたしの、誰よりも大切な男よ……!」
アメリは腹の底から声を張り上げた。
それこそ人生でいちばんの大声だ。
「なによ。少しはましな顔ができるようになったじゃない」
ベリンダがふいにアメリに笑顔を向けた。
その嘘偽りのない表情は、やはり自信に満ちていてアメリでさえも魅了する。
「ハニー、今日も元気でキュートだね。でももう出発の時間だよ?」
「今行くわ、ダーリン」
身なりの良さそうな男がベリンダに声をかけてきた。
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