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第51話 魔王と魔物と人間と
「まぁ、これでも飲んで寛いでよ」
ベッドの上に黒いトレーに乗った茶器が現れる。
途端に部屋がコーヒーの香りで満たされた。
「毒とかは入ってないから。ロランが来るまで丁重におもてなしするよ」
コーヒーが黒いのは納得なのだが、カップも皿もそこに乗せられているクッキーまでも、どれもこれも真っ黒だ。
猜疑心に満ちたアメリの視線に気づいたのか、心外とばかりにヴィルジールが言葉をつけ加えてきた。
「普通のコーヒーとココアクッキーだよ?」
「ココアクッキー……」
そう言われると黒い塊も美味しそうに見えてくる。
寝起きの頭をシャッキリさせたくて、アメリは恐る恐るコーヒーに口をつけた。普通と言うには、とても美味しいコーヒーだ。
「あの、ヴィルジールさん……」
「なに?」
「ヴィルジールさんは魔王なのに、どうして勇者の旅に加わってたんですか?」
「それはね、退屈だったからさ」
「退屈だった……?」
アメリが首を傾げると、ヴィルジールはクッキーをぽいと口に放り込んだ。
魔王もクッキーを食べるのか。そんな明後日な感想を抱いていると、サクサク良い音とともにバニラの甘い香りが漂ってくる。
「待てど暮らせど、なかなか勇者がやってこないもんだからさ。ここはもう手伝ってあげようかなって。初代黒魔道士の子だ孫だって適当に説明して、同じ姿で歴代の勇者たちとずっと一緒に旅してきたんだ」
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