141人が本棚に入れています
本棚に追加
「手伝うってそんな……勇者は魔王を倒しに来るんですよ?」
「倒してくれたらむしろありがとうなんだけど? そうすれば僕もしばらくはゆっくり眠れるからね」
「眠る? やっつけられるじゃなくて?」
「うん、世界はバランスだよ。人々の意識が喜びで満たされれば魔王の力は弱まるし、恐怖に支配されれば闇に属する者が多く世にはびこるのさ」
ヴィルジールが指を一本立てると、クッキーが一枚ふわりと宙に浮かんだ。
かと思うとアメリの唇めがけて飛んでくる。驚く暇もなく、口いっぱいにほろ苦いココアの風味が広がった。
このクッキーも普通と言うには絶品の美味しさだ。文句も言えずに、アメリはおとなしくそれを飲み込んだ。
「結論から言うと、今の人間たちじゃ魔王を完全に倒すことは無理なのさ。愛を高めて魔王を眠らせるのがせいぜいって感じでね」
「その愛がなくなったら、魔王はまた目覚めるんですか?」
「そんなトコ。勇者と聖剣の乙女は人間代表だよ。だから魔王を眠らせるためにふたりの愛が試されるってワケ」
「え? どうして勇者と乙女が?」
物理的に魔王を倒すならまだしも、そんな理由で人類の命運を背負って立つなど、ちょっとばかり荷が重すぎやしないだろうか。
「表向きは乙女が平穏を祈り、その願いを叶えるために勇者が剣を取るってことになってるけどね」
最初のコメントを投稿しよう!