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第52話 挑発
「大地の精霊よ、この者たちに慈悲の無の風を吹かせよ……!」
サラが杖を掲げると、清浄な光が広範囲に降り注いだ。
乱舞する魔物が怯んだところを、聖剣を手にしたロランが先陣を駆け抜ける。
取りこぼした魔物をフランツの槍が貫いた。
詠唱時に無防備となるサラを護るため、マーサが素早い拳と蹴りで近づく魔物を次々に退けていく。
「くっ」
「マーサさんに癒しの風を……!」
肉弾戦を得意とするマーサは、反面怪我を負いやすい。
すかさずサラが回復魔法を唱え、さらに素早さと防御の強化魔法の重ねがけを施した。
「サラ、わるい!」
「問題ありません!」
「来るぞ!」
フランツの警鐘に、激しい攻防が再開される。
フォローし合いながらの強行軍は、見事なほどに隙なく連携が取れていた。
そんな様子が臨場感たっぷりに映し出されて、アメリは鏡にくぎ付けになった。不思議なことに音までもこの耳に届いてくる。
死角からロランに魔物が忍び寄るのが見え、アメリは思わず口元を両手で覆った。
「ロラン、危ない……!」
背後から襲われそうなところを、振り向きざまに聖剣で薙ぎ払う。安堵する余裕もなく、魔物たちは次から次へロランに襲い掛かってきた。
時に悲鳴を上げてハラハラと見守るアメリの横で、ヴィルジールはニコニコ顔のまま高みの見物を決め込んでいる。
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