第52話 挑発

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「僕なりの親切心だったんだけどな~。アメリがそこまで言うなら、あの魔物まるっと全部引き上げよっか?」 「あっ、ダメ! い、いなくならない程度にもっと数を減らしてくださいっ」 「え~、注文が多いなぁ」  ぶつぶつ言いながら、ヴィルジールはもう一度腕を高く掲げた。  かと思うと、ばさりと黒のマントを翻す。 「なんかもうめんどいや。アメリ、ちょっと行ってロランを焚きつけて来よう!」 「ふぇっ!?」  ヴィルジールの小脇に抱えられ、気づけばアメリは遥か上空から鬱蒼と広がる森を見下ろしていた。  下から強く吹き上げる風に、髪とスカートが激しく(なび)く。あまりの恐怖にアメリはヴィルジールのわき腹にしがみついた。 「はっはっは、よくぞここまで来たな、勇者ロランよ!」  地上に向かってわざとらしく声を張り上げたヴィルジールにハッとなる。 「アメリ……!」 「ロランっ!」  木々が開けた少しの空間から、ロランたちの姿が垣間見えた。先ほどまで鏡越しに見ていた情景だ。  届くことはない距離と分かっていても、懸命にロランに向けて手を伸ばした。ヴィルジールの腕から逃れようと、必死に身をよじる。 「ロラぁン!」 「アメリっ、今助ける……!」  雄叫びを上げ、ロランは魔物ごと周囲の木々を薙ぎ払った。  一気に開けた視界に、アメリとロランは熱く視線を絡め合う。
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