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「うわぉ、ここに来てさらに聖剣がパワーアップしたね! さすがは初代の再来と謳われる勇者ロランだ」
「ふざけるなっ! ヴィルジール、いや魔王! 今すぐそこから降りてきて、正々堂々俺と勝負しろ!」
剣の切っ先が、遥か上空にいるジルヴィールに向けられる。
朝日の光を返す聖剣を、ヴィルジールは眩しそうに見た。
「やだなぁ、これはロランの試練なんだよ?」
そう言いつつ、アメリを小脇に抱えたヴィルジールは滑空して一気に高度を下げた。
届きそうで届かない位置でピタッと止まる。ボロボロの姿のロランがすぐそこにいて、半泣きでアメリは手を差し伸べた。
「ロラン!」
「おおっと、アメリはまだ返せないってば。とにかくまずは魔王城に来てくれないと。話はそれからだよ」
ヴィルジールは再び上空高く舞い上がる。みるみるうちにロランの姿が遠のいた。
昇るほどに吹き上げる風が強くなり、アメリの髪とドレスの裾が乱れ踊る。絶望の瞳で地上を見下ろすと、その瞬間、ロランの後方にいたサラの掲げた杖が強い光を放った。
「魔王ヴィルジールに精霊王の祝福と慈愛の口づけを……!」
迸った虹色の閃光は、真っすぐヴィルジールを目指しアメリごと大きく包み込んだ。
愛しくて切なくて嬉しくて。いきなり奥底からこみ上げた言いようのない熱に、感極まってアメリは自身の胸をぎゅっと押さえた。
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