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「早く来ないと用意した美味しいクッキー、アメリと一緒に食べ尽くしちゃうからね~」
「なにぃっ、アメリと一緒にだと……!?」
ひゅっと体がどこかに引き込まれる感覚がする。
空間移動をする前兆に、アメリは泣きながらロランを振り返った。
「ロラン……!」
叫んだ時にはもう、真っ黒いベッドの上にいた。皿に残った数枚のクッキー、飲みかけのコーヒーはいまだ温かな湯気を立てている。
動かない空気の部屋の中、アメリはバルコニーの窓に駆け寄った。靄がかかる外に目を凝らす。
眼下に広がっていたのは、朝焼けに目覚めゆく広大な森だ。遠くまで続く樹海は、どこまでもどこまでも果てしない。
あの森を越え、ロランたちはちょうどこの城の真下までやって来たのだ。
そしてあの切り立った崖を登らない限り、ロランが魔王城に辿り着くことは叶わない。
「さぁ、あとどれくらいでここにたどり着けるかな~」
弾むヴィルジールの声に、アメリは壁の鏡を仰ぎ見た。
すぐに目に飛び込んできたのは、襲い来る魔物たちに無防備な背をさらし、崖に手を掛けるロランの危なげな姿だった。
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