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第54話 勇者になった日
石造りの外壁に張り付きながら、ロランはわずかにせり出した足場を横歩きに移動していた。
平らな分だけ安定感があるが、今度は強風が行く手を阻んでくる。それも思うように進めない要因だ。
でこぼこの崖と違って城壁はつかみどころが少なくて、突風に煽られ何度も吹き飛ばされそうになった。
風が弱まるのを待ち、見つけた支柱部分をよじ登る。それを繰り返しながら、時に激しく魔物と交戦した。
中に入れそうな個所は、最上部にあるバルコニーだけのようだ。ひたすらそこに向けて、安全に進めそうな方向を模索する。
もはや下からの援護は期待できなくなった。少しでも気を抜けば、ここまでの努力が一瞬で水の泡だ。
多少の怪我は構ってなどいられない。それでも致命傷だけは避けなければならなかった。
いつかは仲間と共に、魔王城に乗り込む日が来るのだろう。勇者に選ばれたあの日から、ロランは漠然とそんなことを想像していた。
それがよもやこんな展開が待っていようとは。
「アメリ……」
あまりに過酷な道のりだ。彼女の存在なくしては、絶対に耐えられなかったに違いない。
アメリと出会う以前、薄っぺらい正義感だけで過ごしてきた勇者の日々が、ロランの頭をよぎっては消えていく。
城下町で育ったロランはいたって普通の少年だった。
人よりも運動神経が秀でている程度のもので、将来は父親の鍛冶屋を継ぐのだとロラン自身信じて疑いもしなかった。
それがロランが十六になった年に事態は一変した。
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