第54話 勇者になった日

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 当時は勇者不在の時代が長く続いており、増え続ける魔物の数に国が勇者探しに躍起になっていたのは当然の流れだったと言えるだろう。  十六歳を迎えた男児は皆、勇者の適性試験を受けることが義務付けられて、例にもれずロランも幼馴染と共にその列に並ぶこととなった。  試験は先代勇者の残した聖剣を鞘から抜くという簡単なものだった。とはいえ勇者の剣は大の男でも数人がかりでないと運べないような代物だ。  誰ひとりとして持ち上げることすらできなくて、ひ弱な少年たちにとって勇者試験は十六歳の通過儀礼として一生に一度の記念イベントと化していた。  特にロランは鍛冶屋の跡取り息子だ。本物の勇者の剣にお目にかかれる日を、指折り数えて心待ちにしていたくらいだった。  いよいよ自分の番が来て、しかしロランは聖剣をあっさりと鞘から抜いてしまった。  羽のように軽くまるで重みを感じない剣に、拍子抜けして偽物なのではと疑ってしまったほどだ。  だがロランが掲げた勇者の剣は、その名にふさわしく威風堂々とした輝きを放った。その場がひっくり返ったような騒ぎになったのは言うまでもない。  待望の勇者の出現に、それこそ国中がお祭り状態だ。訳も分からないまま親元から離されて、ロランの立場は一夜にして激変した。  そんな中、周囲の態度の変化にもロランは翻弄された。  多くは羨望と憧れの視線だったが、媚びへつらいロランを利用しようする人間や、中には嫉妬やいやがらせをしてくる者まで多く現れた。
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