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過度な期待が裏返り、魔物がはびこる世への恨みを激しくぶつけられることもめずらしいことではなかった。
その過程で魔王討伐に加わる猛者が選別されて、ひとりまたひとりと仲間が増えていった。それでもロランは常に孤独を抱え続けた。
皆が求めるのは“勇者ロラン”だ。癒えない魔物傷が増えていく日々に、なぜ自分がという思いが胸の奥で燻った。
だからと言って、尻尾を巻いて逃げ出した弱虫と笑いものにはされたくなかった。あのときのロランを支えていたのは、ちっぽけな男のプライドだ。
人間不信が募る中、世界平和などという高潔な目的もなく、ロランは惰性のように勇者を続けていた。
そんな日々の果てで出会ったのがアメリだ。
自分の聖剣の乙女と言われても、また利用されるだけだとロランの中で警戒心が膨らんだ。
どう接して良いのかが分からなくて、始めのころはアメリに随分と冷たい態度をとってしまった。そんなことがひどく懐かしく思える。
「アメリ……アメリ……」
呪文のように唱え続けた。
事実、その名はロランに絶大な力を与えてくれる。アメリ無くしてこの先のロランはあり得ない。
幾度となくアメリの無償の愛に触れ、ロランは本当の意味で勇者になった。
最早世界平和などどうでもいい。ロランは今、アメリのためだけに剣を取っている。
襲い来る複数の魔物を薙ぎ払う。四方からの攻撃に、腕に腰に足にいくつも傷が広がった。
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