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「君は知らなかったと思うけど、僕の父は有名な作曲家でね。最近その父に頼んで、僕も音楽を作って見たんだ」
「じゃあ、最近音楽を聞いていたのは……」
「そう。勉強のために参考にさせてもらっていたんだ。」
「すごいじゃん!でも…なんで音楽を作ったの?」
私が思ったことを聞いた瞬間、彼は眼差しを私に向けた。
「……昔話になるけどね。僕には好きだった女の子がいたんだ。その子はいつも、僕と他愛もない会話をして笑ってくれた。人っていうのは単純で、そんな時間を積み重ねていく内に、いつの間にか僕は、その子が気になっていたんだ」
「でも…僕にはこの気持ちをその子に伝える勇気なんて無かったんだ。だから音楽に想いを歌詞として残そうとしたんだ」
私はその女の子に心当たりがあった。話を聞いている内に、私の心臓の鼓動は早くなっていった。
もしかしたら勘違いかもしれないけど、多分この女の子というのは……
「実は昨日その曲を作ることができたんだけど、神経質になってたせいで、君にそっけない態度を取ってしまったんだ。本当に申し訳ない」
(え?昨日作った曲?確か昨日見た曲も……)
私は昨夜の記憶を思い出し、スマホを取り出した。
「もしかしてその曲って……これの事だったりする」
私はスマホを見せながら、昨日聞いた、私に勇気をくれた曲を指さした。
「え!?そうだけど…な、なんで知ってるの!?」
それを見せると、彼は顔を真っ赤にしながら驚いていた。
「……この曲は、私がどうすればいいか困っていた時に偶然見つけた曲なんだ。私にとって、とても大切な歌…」
それを聞いて彼は喜んでいたように見えた。
「……じゃあ、僕の気持ちにも…もう気づいているんだね」
「え?それってどういう……?」
「さっき言ったでしょ。この曲は君に向けた曲だって」
確かこの曲は、好きな女の子に告白したいが勇気がでない。という男の子のラブソングだったはず。
これが私に向けられた曲だというのなら、彼は本当に私のことが……
言葉の意味を理解した私の心臓は、すでに限界まで昂っていた。
少し間を置いて、彼が続きを話した。
「僕が音楽で伝えたかった想いを今、僕の口から直接、君に伝えたいと思う」
彼がつばを飲み込み、気持ちを整えている。私も昂る鼓動を抑え込むのに必死になっていた。
だが、彼の心の準備はもうできているようだ。
彼が口を開いた。
「……っ!、ずっと…あなたのことが好きでした!
付き合ってください!」
そう言うと彼は私に手を差し出してきた。
「ふふっ」
思わず笑みがこぼれた。
彼は不安を感じているかもしれないが、私の答えは聞くまでもなく…すでに決まっていた。
気持ちを落ち着かせ、満面の笑みで、この言葉を彼に送った。
「……はい。喜んで」
互いの想いが結ばれた瞬間だった。
それを聞き、彼は地面に倒れ込み、ガッツポーズを始めた。
「……うれしい」
彼は泣き出しそうになっていた。
「あはは!ちょっとやめてよ!恥ずかしいじゃん」
そんな事を言いつつ、私も嬉しさでどうにかなりそうだった。
彼につられ、私も一緒に転がりこんで、二人だけの時間を堪能することにした。
「あははっ!……それにしても、二人とも決断を音楽に頼るなんて……私達似た者同士だね!」
私はいつものように、彼の他愛もない話を聞いて、笑うことにした。彼がこの時間が好きだと言ってくれたから……。
今回でわかったことがある。相手に気持ちを伝えるには、音楽だけでは足りない。
最後に必要なのは、 "直接伝える勇気" なのだと。それを心に刻んで欲しい。
私はこの偶然を噛み締めながら、彼と共に教室に戻っていった。
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