○エピローグ

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○エピローグ

「ようやく言ったかぁ」 「隠すようなことじゃなかったでしょ」と続けた澪に「うるせぇ」と戌介は返した。 「男は格好つけてぇもんなんだよ」 「それで好きな子を不安にさせてたら、ただのバカの極み」  その言葉にグッと押し黙る。涙花はそれに「まぁまぁ」と苦笑した。 「戌介くんが不安になるのも分かるし、私も感情的だったし。巻き込んでごめんね、澪ちゃん」 「ぜーんぜん。あれはムカつくし、怒って当然」  頷く澪の髪の毛がピコピコ動く。  教室はいつものように騒がしいが、戌介と涙花が一緒に登校して来た時は一瞬だけ沈黙し、それから雰囲気が柔らかくなって騒がしさが復活した。  言葉にせずとも『仲直り出来たんだ~』というようなそれは、少し恥ずかしかったけれど、それ以外なにもいじってこないところは、本当に良いクラスに恵まれたと思う。  もう先に来ていた澪と朱莉に仲直りしたことを改めて伝えれば、彼女たちもホッとしたようだった。 「ワン君の溺愛っぷりは今に始まったことじゃないから、涙ちゃんは大変だね~」 「すごいを通り越して気持ち悪い」 「あんだと?」 「まぁまぁ」  また喧嘩を始めそうな二人を再び仲裁。  フンとそっぽを向く澪とは反対に戌介は涙花を後ろから抱きしめて頭に頬擦りした。 「嫉妬する?」 「させないで」 「してくれんだ?」 「ちょっと黙って」  頬擦りする戌介に少しだけ頭を押しつけると、「はーい」と機嫌の良い返事が返って来る。  まったく、と涙花が溜息を吐くと、友人二人がどこかげんなりとした視線を向けていることに気がついた。 「どうしたの?」 「どうしたのっていうか……」 「涙ちゃんも毒されたって感じ?」 「え? どういうこと?」 「涙花が可愛いって話しだろ」 「だから、戌介くんはちょっと黙ってて」 「まっ、いいじゃんいいじゃん?」  朱莉は「ニシシ」と笑い、腕を持ち上げて大きな丸を作る。 「愛し合ってるなら問題なし! モーマンタイ、モーマンタイ!」 「なっ、愛し合ってるっていうか、そんなっ」  楽しげに言われて顔が熱くなる。背後で抱きしめながら満足そうに笑う戌介は今は無視だ。 「涙花がそれでいいなら、まぁいいよ」 「澪ちゃんまで!」  ガーンという音が響くそれに涙花は慌てたけれど、そんな涙花に友人二人は笑った。 「まっ、なにがともあれハッピーエンドじゃん?」 「涙花のこと、ちゃんと大事にしなさいよ」 「待って、なんか結婚みたいな流れになってない?」 「一生涯、涙花を幸せにします」 「だから戌介くんは黙っててってば!」  怒鳴るように言えば、「あっはは!」と朱莉が笑いだし、それから澪、そして教室の全員がつられたように笑い出す。注目されるのはもう今更だ。 「えぇ……」  どうして笑われているのか全く分からない。分からないけれど、後ろにいる戌介も友人も楽しそうに笑っているのだから、もういいかと息を吐く。そうしたら涙花も笑い出してしまう。 「どうしたー? なんか楽しそうだね」 「あ、近ちゃーん!」  開きっぱなしだったドアから担任である近元が入ってくる。クラスメイト全員が笑っていれば驚くだろう。でもそんな姿の生徒に近元もどこか嬉しそうだった。  朱莉は彼に手を振り、説明する。 「涙ちゃんとワン君が結婚するんだって!」 「ちがうから!」
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