メニューその1 嫌なことが忘れられない

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メニューその1 嫌なことが忘れられない

ここはカフェ「ねこにし」 ある街の、中華料理店の上の階の、更に奥にあるカフェだ。 カフェの中は窓がなく、やや薄暗い。 店主の趣味の本や漫画がある本棚があるがせいぜい10冊程しかない。 メニューは主に紅茶とコーヒー、ジュース、 食べものはサンドイッチとホットケーキ、ショートケーキ3種だ。 いつからこのカフェがあるか分からないが今のところ潰れる予定はない。 このカフェには一つ普通と違うところがある。 「私、ずっと忘れられなくて」 カフェの席で男性と女性が向かい合っている。 女性は見た感じ30代前半程、髪は肩までの長さ、 白いシャツ、ベージュの薄い上着、スカートをはいている。 男性は30代後半か40代程の眼鏡をかけた、モジャモジャとした髪の男性 で緑のエプロンをかけている。 女性は興奮した様子で男性に話し、男性はうっすら微笑みながら女性に向か直っている。 「もう2年前のことですよ、ある俳優の男性不倫スキャンダルがあったでしょう? 彼、3人の幼い子供がいたにも関わらずある若い女性モデルと不倫して 私、彼のちょっとしたファンで彼が出ている映画やドラマは欠かさず 見ていたんです。 彼のこと、誠実な俳優だと思っていたのにすごくショックで・・」 「それは大変でしたね・・でももう済んだことでは? 現在彼は奥さんと離婚して、芸能界から去ったでしょう? もうテレビで見ることはないのでは?」 男性の言葉に女性は眉を潜めた。 「それは分かっています・・何故か最近になって頻繁に思い出すようになってしまって・・ それだけでないです、彼が今どうしているか気になって彼のことをネットで検索してしまったりもして・・その結果彼のことを思い出して更に嫌な気持ちになって・・何故でしょう? 私自身は、今何も問題がないはずです。 1年前に結婚して仕事もパートに変えることができて 生活は楽になったはずなのに」 女性は自分の首を傾けた。 「もう忘れたいです。でも忘れられない。 異常かもしれませんが、本当にずっと忘れられないのです。 少しでも暇ができるとその人ばかり考えて嫌な気分がします。 考えなくないのに1日中考えて・・すごくくだらないことだとは分かっています。 だから忘れようと努力しましたが、 ずっと苦しくて、イライラして・・もうこんなの嫌です、 早く忘れて楽になりたい、忘れさせすれば私は幸せになれるんです」 女性は早口でしゃべった。 「そうですか、なら忘れさせてあげましょう」 男性の言葉に女性は「そんなことできるのですか?」と驚いた表情を浮かべた。 男性は微笑みながら頷く。 「はい、私にはそれが可能です」 男性の言葉の女性は疑わし気な表情を浮かべた。 「・・本当ですか?ならお願いいたします」 「では、目をつぶって」 男性の言葉に女性は目をつぶった。 すると男性は立ち上がり女性の頭に向かって手を伸ばした。 触れるか触れないかのところで手を止め、何かつぶやいた。 ー1か月後 「私、ずっと忘れられなくて」 カフェの席で男性と女性が向かい合っている。 女性は興奮した様子で男性に話し、男性はうっすら微笑みながら女性に向か直っている。 「もう私が3年前ですよ、それほど月日が経っているのに 忘れられなくて・・ 私、ある漫画が好きでよく見ていたのですが 私の好きだったキャラが途中死んでしまって・・ それも予告もなく唐突に。 えっ、まさか!こんなところで死ぬなんて! とすごいショックを受けました」 「それは大変でしたね・・でももう済んだことでは?」 男性の言葉に女性は眉を潜めた。 「それは分かっています・・何故か最近になって頻繁に思い出すようになってしまって・・それだけでないです、 その漫画のことが気になってついネットで その漫画のネタバレサイトや二次創作サイトを検索してしまったりもして・・結果漫画のことを思い出して更に嫌な気持ちになって・・ 何故でしょう? 1年前結婚して仕事もパートに変えることができて 生活は楽になったはずなのに」 女性は自分の首を傾けた。 「異常かもしれませんが、本当にずっと忘れられないのです。 少しでも暇ができるとそのことばかり考えて嫌な気分がします。 考えなくないのに1日中考えて・・くだらないことだとは分かっています。 だから忘れようと努力しましたが、 ずっと苦しくて、イライラして・・もうこんなの嫌です、 早く忘れて楽になりたい、忘れさせすれば私は幸せになれるんです」 女性は早口でしゃべった。 「そうですか、なら忘れさせてあげましょう」 男性の言葉に女性は「そんなことできるのですか?」と驚いた表情を浮かべた。 男性は微笑みながら頷く。 「はい、私にはそれが可能です」 男性の言葉の女性は疑わし気な表情を浮かべた。 「・・本当ですか?ならお願いいたします」 「では、目をつぶって」 男性の言葉に女性は目をつぶった。 すると男性は立ち上がり女性の頭に向かって手を伸ばした。 触れるか触れないかのところで手を止め、何かつぶやいた。 女性が帰った後、男性と同じ緑のエプロンを来た女性が男性に声を掛けた。 「あの人、1か月前も似たようなこと言ってましたね。 せっかく忘れたのに何故また同じようなことを繰り返すのでしょう?」 「彼女は自身は気づいていないかもしれないが、彼女はそうすることを 必要としているのだろう。 おそらく彼女は夢中になれるものがなく、 刺激を求めている。それが例え自分にとって悪いことでもね。 だから一つ嫌なことを忘れてもまた次の嫌なことを見つけてしまう。 その繰り返しから抜けられない」 「どうすれば抜けられるのでしょう」 「嫌なことを見ずに済むぐらい、 彼女自身が夢中になれるものを見つけることだろう。 しかしそれは彼女が見つけることで、私が手伝うことじゃない」 男性はそう話すと紅茶を飲んだ。 ここはカフェ「ねこにし」。 毎週金曜と土曜、午後6時に1時間、店主である「猫西(本名ではない)」 がカフェに来た者の悩みを聞き、時には相手に魔法をかける。 ・・ただし魔法は限られたことしかできず、 魔法によって相手の本当の願いが叶うとは限らない。
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