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僕はギコギコと首を何とか動かし、顔を向けました。花野くんはハッとして手で口を抑え、すごい顔をしています。戸惑いと驚きと、「やってしまった」という感情が混じったような表情。一方僕はどんな顔をしているのか。青ざめていることだけは間違いないです。
「…今、呼び方、えーくんって。や、やっぱり…あなたがびーちゃんで……」
「……っあ、そ、それは」
間近で見ると、花野くんはあのびーちゃんのまんまです。くりくりした瞳や、目元のホクロ、薄い唇や指先の形も全部びーちゃんそのもの。
僕の記憶と違うのは、男子の制服を着ていることと、ボブヘアーじゃなくて無造作なメンズカットということぐらいです。
「なになに、知り合い?」
ただならぬ僕達の様子を見て、周りの男子も興味を持ってしまったようです。僕はやっとの思いで、同じように青ざめている花野くんに口を開きました。
「……賭け、だったんですか?僕と付き合ったのは…告白してくれたのは…」
「えっ…」
そう聞くと、苦しそうに目を開く花野くん。周りの男子は気まずそうに顔を見合わせています。僕はその場から去ろうと早足で歩き出しました。
「まっ…!待って!!」
花野くんは背後から僕の手を掴みました。この感触はやっぱりびーちゃんです。久しぶりに触れた手の感覚に、涙が目に溜まりました。
「えーくん…!!ご、ごめ…っ!あ、お、俺…男って隠して…」
「ゲームのためってことは、僕のこと…好きでもなんでもなかったんですね」
「え……」
「離してください!びーちゃんのばかぁ!!」
僕は恥ずかしげもなく、「うわぁぁん」と泣きながら手を振り払って、自転車で走り去りました。こんなに苦しいのは、辛いのは…きっとびーちゃんが男だったからではなくて。
僕のこと好きでもなく付き合ってて、今まで全部全部、賭けのためにしてたってことだから…。
《ああ、僕ほんとにびーちゃんのこと好きなんですね。性別が違っても関係なく…》
手を振り払った後の花野くんはどんな顔をしていたんでしょう。僕は振り向くことはできずに一心不乱に自転車を漕いでいきました。
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