2.彼女のこと

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 全力で走り、花野くんの家に辿り着きました。ぜえぜえと早い呼吸を落ち着かせて汗を拭い、ドアの前に立ちます。恐る恐る呼び鈴を押すと、「ピンポーン」という軽い音が響きました。走ったせいか緊張しているせいか、心臓のバクバクが治まりません。 「はーい」  すると中から男の人の声が聞こえ、鍵が開く音が聞こえました。でも、僕は少し違和感を感じています。 《今の声…少し低いです。花野くんじゃないような…?》  扉がゆっくり開き、顔をにょきっと出した人物はやはり。花野くんではありません。 「お主はどなたでござる…アッ!!ゴホゴホ!」 「えっ」 「あっ」 《ござ…る?今、ござるって聞こえたような…》  その人は僕より背が高く、寝癖のついたくせ毛を手で抑えながらダボッとしたTシャツを着ています。慌ててズレたメガネを整えて僕をじっと下から上まで見つめてきました。 「あーえっと、すみません。どちら様ですか?」 「…あ!!え、あ、あの!こんにちは!僕、こちらに住んでる花野枇杷さんの…ゆ、友人?で…」 《あれ、普通の口調です。さっきのは幻聴だったのでしょうか…?》 「へぇー、こんにちは。枇杷の友達?今あいつ居なくて…あ!俺は兄の宙斗(そらと)です」  そういえば…お見舞いに来た時、社会人のお兄さんがいるって言ってました。この人なんですね。身長は大きいしパッと見はあまり花野くんに似てませんけど、どこか雰囲気はやはり似ています。 「あ、は、初めまして!!今宮永詩(こんみやえいし)といいます!花野くんは…どこに行ったか分かりませんかね…?」 「学校からまだ帰ってきてないから、どっか遊びにでも行ってるんじゃないかな?急ぎ?電話しようか?」 「あ!!いえ、大丈夫です!僕からまた連絡してみます、ありがとうございます!失礼します」  深々とお辞儀をして去ろうとすると、「あ、ちょっと待って!」とお兄さんに止められました。 「え…?」 「君、お名前えいしくん…?だっけ。どういう字書くの?」 「え、あ、永遠の永に、詩を書くの詩です…」 「……ほーん、そう!いい名前!弟をよろしくね、じゃ!」 「あ、は、はい!」 《急に名前の字を聞かれるとは…びっくりしました。それよりも!家にいないとなると、まだ学校にいるんでしょうか…》  僕はまた走り出して、花野くんの学校に戻ることにしました。また電話をかけてみるけど、呼出音が鳴るだけで出てくれません。
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