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3. 彼のことを
もう夏ということもあって、いくら夕方でもこれだけ走ると汗が止まりません。制服のシャツをびしょびしょにしながら、僕はまた花野くんの通う高校までやって来ました。
でも校門のところまで来ても、さっきの集団はいません。外から駐輪場や中を覗いてみますがそれらしき人もいないです。
《どうしたら…あまりキョロキョロしていると不審者だと思われてしまいます…!》
その時、背後から「ねぇ」と声をかけられました。ビックリして飛び退くと、そこには花野くんと同じ制服の、茶髪の男子がいました。
「はっ!!はい!!!」
《通報される!!!?》
「何してんの?ていうかさ、あんたさっき花野に会いに来てた奴?走って帰ってった」
「え…」
よく見ると、その人はさっき陽キャ集団の中にいた1人のようでした。花野くんと一緒にいた人です、たぶん。
「あ…!そ、そうです!!えっと、花野くん…どこにいるか分かりますか!?」
「え?帰ったと思うけど」
《まさかの入れ違い…!!??》
がっくり肩を落とすと、その茶髪くんは不思議そうに僕を凝視してきました。
「あっ!僕、汗だくなので近寄らない方が…!」
「なぁ。あんた、本当に花野と付き合ってんの?」
「へ!??」
唐突の質問に驚いて後ずさりすると、茶髪くんは頭を掻きながら話し始めました。
「いやー、俺らよく賭けゲームやって遊んでてさ。飯とかちょっと金賭けたり。でも花野はいつも参加しねーんだよね。だから今回はアイツに賭けの対象になってもらったんだけどさ」
《うっ…、その賭けの対象って…僕と付き合うことですよね…。さっき聞いたから分かってはいますけど、やっぱり心臓が痛い…》
「他校の男とバレずに3ヶ月付き合えたら3000円ってやつ思いついた奴がいて。んで花野って顔とか体格男くさくないしってことで提案したら、アイツやる!って珍しく乗り気でさ。てっきり断ると思ったのに」
「え…」
《花野くんは賭けに乗り気だったってこと…ですか?いやいや!!また勝手に決めつけて不安になっちゃダメです》
「なのに、期間過ぎてもまだ別れてねーって言うし、冷やかすと怒るしよく分かんねーんだよね。さっきもあんたが帰った後、噂の彼氏か?地味じゃね?って冷やかした奴にすげーキレてたし」
「…っえ、」
「だからガチで付き合ってんのか?と思って」
彼はどうして怒ったんですか…僕のため?だったら、なんで賭けに乗り気だったんですか?今すぐ聞きたいし、とにかく会いたいです…。
「おい、どしたん?ていうか、あんたすごい汗…」
視線を外して下を向いた瞬間、茶髪くんが僕に触れようと手を伸ばしてきたようでした。でも一瞬でその手は空中で動きを止めていました。
「わっ!びびった…いって!おい、いてえよ!」
びっくりして顔を上げると、そこには…
「…っはぁ、何触ろうとしてんのお前」
「あ…!び-…、花野、くん」
息を切らしながら茶髪くんの手を強く締め上げる花野くんがいました。
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