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《僕のことを好き……?別れたくない……?》
「ほっっ!!!本当…ですか?」
「…うん。ごめん。キモイこと言って」
「キッ、キモくなんかないです!!」
花野くんは鼻をすすりながら涙を拭い、ぐしぐしと手を濡らしています。まさか告白されると思っていなかったので、きっと僕の顔は今真っ赤になっていることでしょう。赤くしている場合ではないのに!
「…あのさ、俺男だよ?」
「えっ!あっは、はい!分かってます!」
「なのに、なんで顔赤いの?」
「い、いや…だって…」
「……普通、気持ち悪いって思うでしょ?」
「だ、だから気持ち悪いなんて思いません!!だって、男でも女でもびーちゃんはびーちゃんじゃないですか!」
「……っ」
「た、ただ、また告白されるなんて思わなくて…このまま、返答によってはお、お、お別れするのかと思ってたので…」
《あの時みたいです…。学校の前にびーちゃんがいて呼び止められて、告白された時…》
でも、あの時よりも必死で苦しそうで、振り絞ったような告白です。僕も息を吸って、覚悟を決めました。思えば、いつもびーちゃんが恋愛初心者の僕をリードしてくれてました。いつまでも頼ってちゃダメです。男を見せないと!!
「……っあ!!あの!ぼ、僕も、別れたくないです!!!」
「……え、」
「さ、さっき話が聞こえてショックだったのは…最初からゲームのためで、僕のこと好きじゃないんだって勝手に思ったからで…!あ!バカなんて言ってごめんなさい!だ、だから…」
「…俺、もうえーくんの好きな“びーちゃん”じゃないよ…花野枇杷斗っていう男だけど」
「そっ、それでも…!って、えええ!名前、びわとって言うんですか!?」
「…うん。女の子でも通じるように省略して言った。それでもいいの?」
不安そうに眉を下げる花野くん。僕は勇気を振り絞って彼の手を握りました。
《やっぱり…僕と同じくらい大きくてしっかりした手です。でも爪が小さくて可愛い…》
「ぼっ、僕は…この手が…好きです」
「…え?」
「緊張してた僕を引っ張ってくれたこの手も、初デートで頑張ろうとして失敗した情けない僕に、自分達のペースで気楽にやろうって励ましてくれたとこも、ちょっと僕をいじりながらも楽しそうにクシャッと笑うとこも、僕を見つけると嬉しそうにするとこも、美味しそうにご飯を食べるとこも…好きなんです!!」
「…っえーくん、」
「だから…!確かに最初は可愛い女の子に告白されて舞い上がったっていうのは否定できませんが…、今は女の子じゃないとしても、び、び、枇杷斗くんっていう…あなたが好きです!!!」
力いっぱいそう叫ぶと、周りにちらほら歩いていた生徒やその他の人達がこちらを気にし始めているのが分かりました。でも僕は、そのまま掴んだ手を引っ張って自分の方に枇杷斗くんを抱き寄せます。
お互い汗をかいているし、西日が僕達を突き刺しているけど、触れた枇杷斗くんの肌は少し冷たかったです。どれだけ緊張しているか伝わってきました。僕も緊張しているけど、代謝が良すぎるせいか熱くて仕方ないです。
「…っえ、あ、う、うそ…」
「嘘じゃないです…。だから、今度は僕から言います。つ、付き合って…僕の彼女じゃなくて…彼氏になってください!」
「ほんとに俺でいいの…?」
「はい…!!」
「俺嫉妬もするし、すぐ会いたがるしめんどくさいよ…?」
「それでもいいです!」
控えめに抱きしめた枇杷斗くんの体は、僕より小さくてでも筋肉質でガッシリしていて…それに比べて腰は細くて。ほんのり柑橘系の制汗剤の匂いがして…全部全部、愛おしく感じました。
「…っうん、付き合う。嘘みたい、ありがと…えーくん」
僕にぎゅっとしがみついて頭を預ける枇杷斗くんは、僕の好きな笑顔で泣いていました。
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