1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

 俺には好きな場所がある。  それは、町外れにある小高い丘の上の草原だ。人通りはまず無く、真上に広がる青空を雲が静かに流れていく。草原に寝転びそれを一人で眺めるこの時間が好きだ。そして、この場所を気に入っている一番の理由は、この歌声だ。どこからか、風に乗って知らない歌が聞こえてくる。哀しくて美しいそれは、聞いていてとても心地よかった。  歌っているのはどんな人なのだろう。一度会ってみたい。そう思って国中を探したが、あの歌を知っている者は誰もいなかった。  今日もまた、この場所で聞いている。  少しして町の方から男がやって来た。 「ネイ様。国王がお呼びです」 「そうか……なぁ、この歌知らねぇか?」 俺は男に聞いた。男は耳を澄ませると短く言った。 「知りませんね。どこかの村の歌ですかね?」 「その割にはちゃんと聞こえるだろ?」 俺は上体を起こして聞いた。すると男は笑って答えた。 「ひょっとして風が歌ってるんじゃないですか?」 「そっか」 歌い手がいないのは、風が歌っているからか。とぼんやり納得した。男は前のめりになって言った。 「それよりネイ様。国王がお待ちですよ」 「あぁ、今行く」 俺は立ち上がり、男と共に城に向かった。  国の中央に位置する城へ入り、だだっ広い部屋の立派な椅子に座った国王は、部屋の中央あたりで跪く俺に命じた。 「勇者ネイよ、魔王バアルを討伐せよ」 「承知しました」 俺は返事をして城を出て、国王の出してくれた馬に乗り、国を出た。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!