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「すでに物語は終盤に入っているからね。あとは、君が僕を殺すだけだ」
彼が言うことが正しければ、私が殺すまで殺人鬼ジャックの仮面は外れない。
殺人鬼にしたてられた挙句、殺されないと仮面が取れないなんて、たちの悪い呪いだ。いったい、どこの神様がこんなバカげたことをしているのだろうか。
「だから、私は好きな人を殺さないって」
懇願するような彼の瞳から視線をそらし、私は暖炉の炎に視線を向けた。爆ぜる薪の乾いた音だけが、静まり返った部屋で大きく聞こえる。
長い沈黙の後、急に暖炉のそばで重たい金属が床にぶつかる音がした。
「なに?」
椅子に座っていた私は腰を上げ、音のした暖炉の横に目を凝らす。
そこには、斧が倒れていた。揺れる炎の赤が、鈍い鉄色の刃に移りこんでいる。壁に立てかけられていたのだろうか。よく研がれた刃がぬらりと怪しく光っている。
そういえば、斧は教会に置いてきてしまった。丸腰だとこの先、なにかと不便だ。丁度いいところに斧が落ちていて助かった。
(これって……)
拾った斧の柄の部分に目が留まる。手になじむ木製の柄には、ハートフィールドの家紋が刻印されていた。よく見ると、刃先に入った傷や付着した汚れまで既視感がある。
「……私の斧だ。どうしてここに?」
「決まっているだろう。この呪いは、君が僕を殺すまで、どこまでも追いかけてくる」
ゲームのダンジョンにあらかじめ設置してある宝箱のように、斧が置かれていた。しかもそれは、ファイナルガールの実家の家紋が刻まれている。
これでジャックを殺せと、神は私に命じているようだ。
(ほんと、解釈違い……)
強引で、つじつまもへったくれもない展開に、私は奥歯をかみしめる。この世界の神は、どんな展開になろうとジャックが殺されるラストをお望みらしい。
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