2章

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「君は本当に――なんでもない」  ジャックはなにかを言いかけ、ふい、と私から視線をそらした。彼は柱に刺さった斧を引っこ抜くと、私に押し付けるように渡す。 「この先、身を守れるものがあった方がいい。君が持っていてくれ」  これ以上言っても無駄だと思ったのか、彼は斧で自分を殺せとはもう言わないようだ。 「斧のほかに、なにか武器になるものは……」 「ナイフなら何本か持ってるよ。あとは、変装用の小道具も持ってる」  私は腰に巻き付けたポーチから、ナイフを取り出して見せる。小型のナイフは、女の私の手にすっぽり収まるサイズだ。刃先から柄まで青銅製で、蔓の装飾が施された柄の部分は、握ると手のひらによく馴染む。 「君はどうしてそんなものを持っているんだ」 「決まってるでしょ。貴方を守るためだよ。丸腰で街の人たちと戦えるわけないし」 「街の人たちと戦う? なぜそんなことを?」 「懸賞金をかけて、あの人たちはジャックを広場の処刑場で殺そうとしているんだから、当然でしょ。原作の映画では、結局私が殺すことになるんだけど。いや、私じゃなくて、元のノアだけど」  連続殺人事件が起こり、街では仮面の男を捕まえると躍起になっていた。このままでは、ジャックは私に殺される前に街の人たちに殺されるかもしれない。彼の救世主になるなら今しかないと、私は蓄えた装備を身に着けて寄宿学校を抜け出したのだ。 「誰よりも先に貴方を見つけて、貴方を守るつもりだったから。街の人たちを傷つけてでもね」  ナイフを構えた私に、ジャックが身震いする。 「だめだ! そんなことをしたら――」  声をひっくり返して叫んだジャックの口を、私は慌てておさえる。 「こら、そんなに大きな声を出したら、気づかれちゃうでしょ。まさか、このナイフを使ってほしいの?」 「そんなわけっ……、ないだろう」  最後は声を潜めてジャックは言った。口元をおさえ、当たりを警戒している。からかいがいのある男だ。映画のジャックと全く違うが、こういうところは気に入っている。
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