2章

7/9
前へ
/33ページ
次へ
「それで、この後の計画は?」 「このまま、小屋に隠れているわけにもいかない。やはり、僕を早く街の人たちに突き出して、処刑してもらった方が」 「そんなことしたら、また街の人たちが死んじゃうんじゃない?」 「た、たしかに」  ハッと気づき、ジャックは思いとどまる。  まじめで素直、嘘がつけない優等生――それが、転生したジャックの性格だ。出会ってから十年間、ずっと彼をそばで見ていた。 (素直で扱いやすいと思ってたけど、変に頑固なところは面倒なんだよな)  本物のジャックとは違って、大それたことをする度胸を彼は持ち合わせていない。代わりに、突拍子もないことをまれにしでかすところがある。 「それなら――」  彼が言いかけたとき、カーテンの向こうに気配を感じた。私はナイフをポーチに戻し、斧を両手で握りしめる。 「誰!」  呼びかけると、軋んだ音をさせ、玄関ドアが開いた。斧の柄を握り締め、私は背後にジャックを隠す。暗い玄関ドアに目を凝らすと、赤く揺らめくなにかが投げ込まれた。 「これは――」  ガラス瓶が割れ、火が燃え上がる。あれは火炎瓶だ。みるみると炎は広がり、出口をふさがれる。  煙を吸わないように口元をおさえ、私は姿勢を低くした。窓から外をうかがうと、松明の光りが点々と見える。 (囲まれたか)  私は椅子に敷いていたマントを羽織り、窓を開けた。 「ジャック、逃げるよ」  うなずいたジャックを連れ、窓から小屋を脱出する。  獣や虫のように燻り出された私たちを待ち構えていたのは、松明を持った人々だ。森に逃げ込んだ殺人鬼を探しに来たのだろう。小屋を取り囲むように、街の人達が立っていた。  松明の炎に照らされ、うっすらと笑った彼らの顔が浮かび上がる。  大量の殺意を向けられ、ジャックは身をすくませて私の背後に隠れた。殺人鬼役には到底見えない男に、街の人達がにじり寄る。 「どこに行く気だ! この殺人鬼め!」  一番前にいた人相の悪い大男が、巨大な鉈を振り上げて土を蹴り上げた。向かってくる男に、私は斧の柄を盾にして構える。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加