2章

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「ちょっと、さっさと動いてよ! 丸焼きになるでしょうが!」 「し、しかし、僕が近づいたらあの人たちが死んでしまうじゃないか」 「そんなこと言ってる間に、私たちが死んじゃうっての。この頑固者が!」  足を踏ん張った彼はびくともしない。いったいどこにそんな力があるのか、やせ形で頼りないはずの彼に、私は押し返された。 「僕のせいで誰かが死ぬのが嫌なんだ!」  叫びながら、彼は私を振り払った。よろけて体勢を崩しながら、彼を見上げる。  意志の強いヘーゼル色の瞳が、私を射抜く。映画のジャックとは違う闇に染まっていない純粋な正義感に、私は心の中で舌打ちをした。  厄介なことになったが、彼の意志が固そうだ。 「――分かった。あの人たちが死なないようにする。でも、ジャックも一緒に行くんだよ」  私は腰に下げたポーチから細いロープを出すと、自分の体に巻き付けた。ロープの反対側は、ジャックの腰に巻き付ける。 「街の人たちが死ななかったら、貴方は満足なんでしょ? だったら、私が全員守る」  少しでも身軽にするために、背負っていた斧を放り捨てる。腕を回してなんどか屈伸すると、ジャックに一声かけた。 「転ばないで、ついて来てよ!」  ぐっと足先に力を入れ、私は一気に武器を構えた男たちに向かって走り出す。  ジャックが通り抜けるのに合わせ、一番前にいた人が足を滑らせた。 「絶対に、殺さない!」  自分に言い聞かせるように声を上げ、私は体勢を崩した小柄な男の腕を掴む。岩に頭をぶつける寸前で、男の体が止まった。  再び走り出すと、移動するジャックに合わせて街の人々に災難が襲いかかる。その一人一人を、助けながら走っていく。  倒れる巨木に潰されそうな人を突き飛ばし、クマに襲われそうになる人がいればクマを投げ飛ばし、蜂に襲われる人がいれば蜂を叩き落す。ジャックが走るたびに次々に降りかかる災難を振り払い、森を走り抜けていく。  私の力は、全てジャックを守るために身に着けたものだ。それがまさか、彼を殺そうとする人たちを助けるために使うとは思わなかった。 「今まで、貴方を守るために生きてきたんだから、一人や二人、守る相手が増えようが関係ない」  人々の間を通り抜けながら、私はロープを握りしめた。 「だから、貴方も諦めないで!」  背後から走って着いてくるジャックに言うと、息を切らした彼のかすかな声が聞こえた。 「……はい」  蚊の鳴くような声だったが、私の耳にはしっかりと届いた。
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