3章

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3章

 森を抜けて隣街につく頃には、すっかり日が昇っていた。  私とジャックは、こっそり森から隣街の様子をうかがう。明け方だというのに、街からは朝市を利用する人々の声で活気にあふれている。  おそらく、殺人鬼の噂はここまで伝わっているはずだ。なにも作戦を立てずに足を踏み入れるのは、危険すぎる。  私は野菜や果物の並ぶ朝市から視線を外し、隣のジャックを見上げた。 「顔が目立ちすぎる……!」 「外せないのだから仕方がないだろう」  白い仮面で顔を覆ったジャックは、いるだけで目立つ。人ごみに身を隠そうにも、怪しさ満載の彼では無理だ。  そもそも殺人鬼とばれているせいで、このまま出て行けばすぐに捕まってしまう。かといって、あのカビ臭い小屋は燃えてしまって戻れない。 「覆面とか、してみる?」 「逆に怪しいと思うが」  提案を即座にいなされ、私は腕を組んだ。 (なぜ、仮面は目立つのか? ふつうは仮面を付けないから? じゃあ、目立たないようにするには?)  そこまで考え、私はぽんとひざを打った。 「――その仮面は?」  街の外れにある宿屋に入ってすぐ、受付のの男視線が私たちに向いた。赤毛の中年男の視線が、私とジャックの顔を行き来する。  私の顔は、ジャックとおそろいの仮面で隠れていた。この仮面は、ジャックを救う作戦の中で、もしもの時のために用意しておいたものだ。 (備えあれば憂いなしとは、よく言ったものだな。よくやった、過去の私)  一人だけ仮面だと目立つが、二人が付けていたら注目が分散する。  題して、二人でやれば怖くない、そういうファッションに見えてくる作戦だ。 「知らないんですか? 巷で流行ってる、殺人鬼ジャックのコスプレですよ」  私はおじさんに向かって親指を立てる。よどみなく言い切ると、赤毛の男は口ひげを触りながら、ジャックに視線を向けた。 「そちらの方も?」 「恋人同士で仮面を付けあうのが、今の流行なんです」 「では、お名前は」 「ジョエルとリリノアです。オカルト趣味がきっかけで出会い、来月結婚する予定なんです。今日は婚前旅行で、殺人鬼が出ると話題の街にやって来ました」  仮面も特注で用意しましたのよ、おほほ――と、私は口元をおさえて笑う。 「そうですか。いやちょうど、宿でカップルプランをやっていましてね。宿代は一人分で結構ですよ」 「本当ですか? 助かります」  とくに怪しむこともなく、宿のおじさんは部屋の鍵を私に渡した。  立ち尽くしていたジャックの腕に自分の腕を絡め、引きずるように部屋へ向かう。その間、ジャックは終始うつむいたまま黙りこくっていた。  きっとまた、余計なことを考えているに違いない。
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