3章

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「どうしたの?」  一応聞いておくか。宿の廊下を歩きながら、こっそり話しかける。 「嘘をついたせいで、お腹が痛くなってしまって」 「貴方って昔からそうだよね、本当に解釈違い」  嘘が付けない正直者。映画のジャックも元々はそういう子供だったが、成長過程で変わっていった。そんな彼の人間関係のあれこれを私が助けてあげる作戦だったのに。転生したジャックは、勝手にスクスクとまっすぐに育ってしまった。  つまり、私の出る幕はなくなったのだ。これで彼が殺人鬼に成ることも、私が彼の救世主に成れるチャンスもなくなった。 (そう思っていたのに、こんなことになるなんてね……)  今の彼を助けたとしても、映画のジャックを救ったことになるのだろうか。  彼は圧倒的に解釈違いすぎる。そもそも、元のジャックではない。興ざめもいいところだ。 「解釈違い、解釈違いって、僕は僕だ。それに、君だって、見た目は映画のノアだが、中身は全く違うじゃないか」 「はいはい、どうせ私はノアみたいなヒロインじゃないですよ」  解釈違いはお互いさまというわけだ。私は唇を尖らせ、部屋の鍵を開けた。 「違うさ。どんな姿をしていようと、君は君で、僕は僕ということだ。人間、中身が大切だろう」  ジャックは曇りない声でいつも話す。嘘を付けない彼の言葉は、たまに居心地が悪くなる。私は彼に背を向けたままドアを開き、ため息をつく。 「ほんっとに、解釈違いだね。でも、そういうところは嫌いじゃない」  鍵をジャックに投げ渡し、私は鼻先で笑った。 「……君って、本当に僕が好きなのかい?」 「さあ、どうだろうね。分からなくなってきたよ」  ベッドが二つと、一人用の文机があるだけの質素な部屋だ。白い壁は薄汚れ、ひびも入っている。床は歩くたびに軋み、抜けそうで不安だ。少し曇った窓には、黄ばんだ白いカーテンがかかっている。奥にあるドアの向こうは、浴室だろうか。  お世辞にも綺麗とは言えない部屋を見回し、私はドアの方に目を向けた。さえない顔をしたジャックが、部屋に入ることなく佇んでいる。 「ショックだった?」 「まさか! どうして、僕がショックを受けるんだ」  立ち尽くしていた彼が、ふんと鼻を鳴らして部屋に入ってくる。  ベッドを叩いて軽くほこりを払い、腰を下ろす。硬くて寝心地は悪そうだが、あの小屋よりはましだ。
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