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(なんだか、急につまらなくなってきたな)
この世界に転生したと気づいてから、ジャックの救世主になることを夢みてきた。それが、こんな幕引きになるとは思わなかった。
お湯を頭からかぶり、私は邪念を払うようにお風呂からあがる。服を着て、ふと鏡を見た時、私は自分の顔に目を見開いた。
「な、なんじゃこれ!」
私は両手で顔をおさえ、腹の底から叫び声をあげた。
「どうした! ……その仮面は!」
悲鳴のような声を聞きつけ、ジャックが洗面所に飛び込んできた。彼の顔を見て、私はわなわなと震える指を彼の顔に向ける。
「ジャックこそ、仮面が」
「仮面がどうかしたのか?」
ジャックは鏡に顔を向けると、ぽかんと口を開いた。彼の顔を隠していた仮面が、右半分だけ剥がれ落ちている。
その剥がれ落ちた右半分が乗り移ったように、私の顔の右側にも仮面がくっついていた。仮面を外そうと引っ張ってみても、皮膚にはり付いたように外れない。
「どうなっている?」
お互いに鏡を見ながら、私とジャックはぺたぺたと顔を触った。
まさかこれは、私が半分だけ殺人鬼になったということだろうか。確かに、隣の男よりも私の方が殺人鬼に向いている。
「……うーん、なんかちょっと嬉しいかも。ジャックとお揃いだ」
「お揃いだ――じゃ、ないんだよ、君! なにをのんきなことを言っているんだ」
また、ジャックは頭を掻きむしりながら悶え始めた。仮面がなくなり、高く骨ばった鼻筋も飢えた獣のような目も、はっきり今は見える。
顔面蒼白のジャックの背中を、どうどうと馬をなだめるように私は撫でた。
「つまり、私は半分殺人鬼役に足を突っ込んだってことでしょ? それって、かなり私たちにとって有利なことだよ。だって、敵を二人で迎え撃つ準備ができたってことでしょ」
体を丸めて唸っているジャックの背中を叩き、私は彼の半分残った仮面に触れる。紛れもない殺人鬼の証をなぞると、ジャックが身震いした。
「それに、ジャックの業を半分背負えたんだから、私にとっては嬉しいことだよ」
「それなら僕は、君の業を半分背負ったってことか?」
ジャックがファイナルガール。想像すると、なんだかしっくりくる。正義感が強くてまじめで正直者。映画のノアと同じだ。
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