3章

5/8
前へ
/33ページ
次へ
「私はジャックに比べて、なにも背負ってないよ」 「そんなことはない。君は凶悪な殺人鬼を倒すヒーローだろう? 君が半分殺人鬼なら、僕は半分ファイナルガールになったってことだ」  誇らしげに腰に手を当て、ジャックは胸を張った。うすうす感じていたが、私が映画のジャックのファンだったように、彼はノアのファンではないだろうか。  彼は興奮した面持ちで、爛々と瞳を輝かせている。 「なんにせよ、これでお互いの天秤が吊りあったってことだよ。どちらかがファイナルガールとして、物語を終わらせろってことだろうけどね」  私は仮面の冷たく煩わしい感触に、かぶりを振る。  殺人鬼ジャックとノアの最終決戦が始まらず、映画を終わらせられなくなった。この映画は、ファイナルガールのノアが殺人鬼ジャックを殺すことを望んでいる。  あの教会で私がジャックを殺さなかったのが、お気に召さなかったのだろう。どこかにいるこの世界の見えざる手が、確実に世界への介入を始めている。 「しびれを切らしたって、ところかな。僕たちの神様は」  彼の視線が、床に落ちる。そこには、私のポーチが置いてあった。ポーチからは、ナイフの柄がのぞいている。  私とジャックの間に、一瞬だけ緊迫した空気が流れた。  私はナイフをポーチから出し、鞘から刃を抜く。ジャックを追いかける前に磨いていため、鋭い刃が光っている。刃を見つめる私を見下ろし、彼が唾をのんだのが分かった。  まさか、私が殺すとでも思っているのだろうか。呆れて苦笑し、私はくるりとナイフを回すと、彼に柄を向けて差し出した。 「これ、持ってて。この先、私が貴方を守れなくなることがあるかもしれないから」 「まさか、これで街の人を殺せと?」 「殺せ、なんて言ってないよ。自分の身くらい自分で守れた方が、貴方も気が楽なんじゃない? いつまでも、私に守られるのは気が重いでしょ?」  またお腹が痛くなったなんて言われたら嫌だし、と付け足すと、ジャックはひったくるようにナイフと鞘を受け取った。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加