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「私はジャックに比べて、なにも背負ってないよ」
「そんなことはない。君は凶悪な殺人鬼を倒すヒーローだろう? 君が半分殺人鬼なら、僕は半分ファイナルガールになったってことだ」
誇らしげに腰に手を当て、ジャックは胸を張った。うすうす感じていたが、私が映画のジャックのファンだったように、彼はノアのファンではないだろうか。
彼は興奮した面持ちで、爛々と瞳を輝かせている。
「なんにせよ、これでお互いの天秤が吊りあったってことだよ。どちらかがファイナルガールとして、物語を終わらせろってことだろうけどね」
私は仮面の冷たく煩わしい感触に、かぶりを振る。
殺人鬼ジャックとノアの最終決戦が始まらず、映画を終わらせられなくなった。この映画は、ファイナルガールのノアが殺人鬼ジャックを殺すことを望んでいる。
あの教会で私がジャックを殺さなかったのが、お気に召さなかったのだろう。どこかにいるこの世界の見えざる手が、確実に世界への介入を始めている。
「しびれを切らしたって、ところかな。僕たちの神様は」
彼の視線が、床に落ちる。そこには、私のポーチが置いてあった。ポーチからは、ナイフの柄がのぞいている。
私とジャックの間に、一瞬だけ緊迫した空気が流れた。
私はナイフをポーチから出し、鞘から刃を抜く。ジャックを追いかける前に磨いていため、鋭い刃が光っている。刃を見つめる私を見下ろし、彼が唾をのんだのが分かった。
まさか、私が殺すとでも思っているのだろうか。呆れて苦笑し、私はくるりとナイフを回すと、彼に柄を向けて差し出した。
「これ、持ってて。この先、私が貴方を守れなくなることがあるかもしれないから」
「まさか、これで街の人を殺せと?」
「殺せ、なんて言ってないよ。自分の身くらい自分で守れた方が、貴方も気が楽なんじゃない? いつまでも、私に守られるのは気が重いでしょ?」
またお腹が痛くなったなんて言われたら嫌だし、と付け足すと、ジャックはひったくるようにナイフと鞘を受け取った。
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