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「すみません、わざわざ届けてもらって」  危ないところだった。私たちがここにいた痕跡は、なるべく残さない方がいい。マスクを受け取ったとき、男の顔に目が留まった。 「貴方、どこかで会いましたっけ?」  違和感を覚え、男の顔をじっと見つめる。  そのとき、脳内に教会でジャックを撃とうとした猟師の顔がフラッシュバックした。  この男、あの時教会にいた猟師に間違いない。髭の下には、猟師と同じ大きないぼがある。 「……教会で会いましたよね? なんで、宿に? そもそも死んだはずじゃ?」  いないはずの男の姿に、私は動揺してマスクを落とす。街の喧騒が止まり、違和感を覚えて私は周囲を見回した。 (ここは、本当に隣街?)  街にいたのは、見覚えのある人たちばかりだった。寄宿学校の教師や生徒、お屋敷の使用人や休みの日によく行くお店の店員。その中には、私たちを襲った人たちの姿もある。服装は違うが、彼らは私やジャックの姿を気にも留めずに街を行きかっていた。  なにがどうなっているのか。混乱していると、赤ひげの男が私を突き飛ばした。 「――くそっ!」  私が体勢を崩している間に、男は走り出す。すぐに体を起こし、私はそのあとを追いかけた。 「おい、どこに行く!」  背後からジャックの声がしたが、振り返る余裕はない。男を追いかけ、私はいびつな映画の世界を駆け抜けた。
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