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 壁を越えて大通りに戻った私を待ち受けていたのは、大勢の人だかりだった。人々をかき分け広場に出ると、ようやく視界が開けた。集まった街の人たちは、なにかに手を伸ばしながら重なるように押し合っている。  その中心にいたのは、ジャックだった。両脇を街の男に拘束され、広場の中央に建てられた処刑台に向かって引きずられている。 「ジャック!」  私は人々を押しどけ、彼の名前を読んだ。 「ノア、来たらだめだ!」  声を張り上げたジャックに、街の人たちは一切反応しなかった。まるで、決められた動きをプログラミングされたロボットのように、人々は動き続ける。 (タイムリミットというわけか)  私たちはずっと、決められた狭い世界を見せられていた。この世界に、次の街なんて初めからなかったのだ。  映画の主人公ノアと殺人鬼ジャック。二人の配役と多くのわき役たち。主演の二人以外は、代役を立てても、一人二役やってもいい。  すべては、殺人鬼ジャックを殺して世界を終わらせるために、私たちは集められた。  バカげた展開に、役者が足らなくて配役もめちゃくちゃ。こんな無理やりでつじつま合わせの展開、B級映画を超えてC級映画だ。 (そうだ、これは映画だ……。現実じゃなくて、フィクションだ)  私は広場に集まった人々をかき分けながら、捕らえられたジャックを追いかけた。その間にも、街の人たちが彼を引きずり、処刑台に続く階段を上っていく。 (フィクションにだって、やっていいことと、悪いことくらいあるんだよ……)  このままでは、ファイナルガール抜きで、勝手に映画の幕を下ろされる。そんな横暴、許してなるものか。  込み上げた怒りで頭が沸騰し、目の奥が燃えそうなほど熱い。感情をおさえられず嚙み締めたせいで、口の中で血の味がした。 「お前ら全員、私を見ろ! ジャックを殺すなら、全員私が殺してやる!」  私は斧を振り上げ、空に向かって叫んだ。瞬間、処刑台に挙げられたジャックから、半分だけ残った仮面が剥がれ落ちた。処刑台の下にいる私を見たとたん、ジャックは目を見開く。 「ノア、君、顔が……」  ジャックは私を指さした。  私は自分の顔に触れた。半分だけだったはずの仮面の冷たい感触が、顔全体を覆っている。
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