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「そうだ、これでいい」  ようやく、私はファイナルガール役から殺人鬼役に完全に移行されたようだ。  白い仮面を付けた私に、街の人たちの視線が集まる。ジャックから離れた人たちが、私に向かってゆらゆらと私に近づいてきた。  広場にあふれかえった人々が、一斉に私の体を掴もうと押し寄せる。すぐに斧は取り上げられ、私は人の波に乗って処刑台に運ばれていく。  彼らにとって、殺人鬼は誰でもいい。私だろうと、ジャックだろうと関係ないのだ。 「やめろ! 彼女から手を離せ!」  無数の手に掴まれた私に、処刑台の上からジャックが手を伸ばした。周囲の人たちは、そんな彼の体まで飲み込もうと拘束していく。 「待て! 僕が殺す! 今のファイナルガールは僕だろう?」  処刑台から降ろされそうになったジャックは、傍らの男につかみかかり、私が取り上げられた斧を取り戻した。斧を振りまわし、彼は人々を退けながら、処刑台に拘束された私に駆け寄った。  「大丈夫か、今助けるからな」 「いや、やめようジャック。このまま、すべてを終わらせるんだ」 「馬鹿なことを言うな。君が言ったんだぞ、この世界を終わらせるって」 「私が終わらせられる。順番が回って来たんだよ」  完全な殺人鬼となり、ジャックの気持ちが今なら分かる。私が死んで終わるなら、そんな楽なことはない。  ジャックの両脇を処刑役の男たちが拘束する。同時に、私の首に絞首刑用の縄がかけられた。 「好きな人を、殺せるわけがない。だから、私が代わりに死ぬ。貴方は最後まで私を見ていて」  私は世界を終わらせるために、ここで殺される。覚悟を決めてジャックを見上げると、彼は仮面の消えた顔を真っ赤にして声を張り上げた。 「解釈違いだ! 僕のことも、街の人たちも全員守って、自分も生き残るって言うのが、僕の知ってる君だ!」  じっとりと暑い空気を切り裂くような、頭のてっぺんから響く怒声が広場に響く。  彼の声に耳を貸すことなく、処刑台から引きずり降ろそうと周囲の人たちの手が彼を掴む。眉を吊り上げ、ジャックは両脇の男たちを振りほどく。火事場の馬鹿力なのか、彼はそばにいる人たちを次々と処刑台から投げ飛ばしていった。 「君が僕を見てきたように、僕だってずっと君を見てきたんだ。だけど、君は僕を殺す役だからって、思ってきたのに、それを壊したのは君だ」  街の人たちとつかみ合いながら、彼は言った。
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