1章

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 このままだと、猟銃に撃たれてしまう。私はジャックと男の間に立ちふさがった。 「ちょっと、その銃をおろしなさい! この人は――」  私が言い切らないうちに、男が猟銃の引き金を引いた。強烈な破裂音が響くが、私たちに弾が飛んでくることはなかった。  銃が腔発したのだ。その衝撃で、男の体が後ろに吹き飛び、テンドグラスにぶつかる。ガラスを突き破り、男は教会の外に投げ出された。  教会の鐘が鳴り響き、粉々に飛び散った鮮やかなガラスの欠片が、男の体と一緒に落ちていく。悲痛な絶叫が鐘の音と重なり、消えていった。  割れたステンドグラスに駆け寄り、私は教会の外へ目を配る。  教会の裏手は岸壁になっていた。その向こうに広がるのは、荒々しい波が渦巻く海原だ。  崖を見下ろすと、かすかに血の跡が見える。体が転がり落ちたのだろう。血痕は岸壁から海に向かって伸び、消えている。  大きな満月が男の血痕を照らし、まるでスポットライトのようだ。  薄暗い崖を見回していると、背後に気配がして私は振り返った。 「……だから来るなと言ったのに」  同じように崖下に視線をやり、ジャックは独り言のように呟いた。 「君が僕を殺してくれなかったせいだぞ。街の人たちがここに集まってきている。これ以上被害者が出る前に、私を早く殺すんだ」  彼は斧を私に突き出した。  事情は分からないが、どうやら彼は私に殺されたがっているようだ。殺人鬼なら斧で私を殺せばいいものを、ご丁寧に刃で怪我をしないように、柄の方を私に向けている。  なんて律儀な殺人鬼なんだ。 (いや、解釈違いすぎる! ジャックは孤高の殺人鬼なのに!)  私が頭を抱えて動揺していると、教会の一階から激しく扉を叩く音が聞こえてきた。耳を澄ますと、二階まで届く怒声が反響した。
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