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 アルコールと薬品の混ざった匂いがする。規則的な機械音が遠くから聞こえ、私は目を開いた。 「――気が付きましたか?」  白衣を着た女性と男性が私を覗き込んでいた。  白い天井に、清潔なリネン。医者らしき男女の向こうには、白いカーテンの取り付けられたレールが見える。  あの映画の世界ではなく、ここは私が転生する前にいた世界だ。 「ここに来る前のことを、覚えていますか?」 「ここに来る前?」  そもそも、ここはどこなのか――ぼんやり白い部屋を見回していると、もうろうとしていた意識がはっきりしてきた。 (そうだ、私は実験に参加して、それで……どうなったんだっけ?)  あの世界に転生する前、私はとある実験に参加していた。たしか、眠るように意識だけをフィクションの世界に飛ばす技術の実験だ。企業が募集していた被験者として施設に集められ、ヘッドギアのようなものを装着したところまでは覚えている。  それから、気が付いたらあの世界にいたのだ。どうやら私は、転生したわけではなく、長い悪夢を見せられていたらしい。 「実験は、どうなったんですか?」 「企業側の発表によれば、実験中にシステムに異常が起こり、被験者の脳波に異常が起きたようです。そのまま意識を戻せば脳に異常が怒る可能性があり、無理やりにストーリーを終わらせようとしたらしいのですが、そのせいでさらにシステム異常が起こったようで」  つまり、私の意識は映画の世界に閉じ込められていたということだ。あの闇は、こちらの世界に帰るための緊急脱出ポッドだったのだろう。システムエラーを改善する過程で作られた物語に、私とジャックは逆らい続けた。最後にはシステムが停止し、住民たちがバグで動かなくなったのかもしれない。おかげで、私とジャックはあの闇に飛び込むことができたというわけか。 「ほかの被験者の人たちは?」 「貴方ともう一人、男性がいましたが、彼も目を覚ましたようです。お知合いですか?」 「いや、はい、いえ、うーん、はい……いや」 「どっちです?」  あいまいな言い方に、医者が首をかしげる。
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