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 もう一人がジャックなのか、それとも、あのジャックも企業が作り出したキャラクターなのか、分からない。 (でも、もしもジャックだとしたら……)  私は彼に会わなければいけない。  夜、本当にジャックなのか確かめに、私は病室を抜け出した。足音を殺し、周囲を見回しながら、廊下を歩いていく。一室一室、病室を確かめながら歩いていると、廊下の向こうから足音が聞こえきた。とっさに私は、自販機の後ろに隠れる。  現れたのは、入院着姿の男だった。彼の顔は包帯で覆われていて見えない。 「そこの君、尋ねたいことがあるんだが……」  彼の声を聴いて、私は物陰から飛び出した。 「……ジャック?」  私が尋ねると、彼はこくりとうなずいた。 「どうしたの、その顔は! 誰にやられた!」 「心配しなくても、怪我じゃないさ。仮面がないと、落ち着かなくて」  ジャックは包帯をゆるめ、顔を半分出す。相変わらず変わり者な彼に、私は飛びついた。彼は体勢を崩しながら、私を抱きとめる。 「あの世界をぶっ壊せたんだね」 「どうやら、そうみたいだ」  思い出したが、映画の世界に入れると聞き、ホラー映画ファンだった私は実験に参加した。それが、まさか命に関わることになるなんて思わなかった。 「でも、あの実験があったからジャックに会えたんだよね」 「まあ、そうなんだが……。僕はジャックじゃない」  彼は抱き着く私をそっと離した。  そうだった。私もノアなんて名前ではない。お互いに本当の名前がある。  元の世界に戻ったら、お互いに名前を教えあおう。あの約束を果たすときが来た。 「名前、聞いてもいい?」  私が尋ねると、彼はゆっくりとうなずいた。 「僕の名前は――」  そのとき、窓の外が明滅し、雷鳴が夜の病院に鳴り響いた。薄暗い廊下に光が差し込み、包帯だらけの彼の顔を照らす。  近くに落ちたのだろうか。肌が震える轟音に心臓が掴まれたように縮こまる。  声をかき消された彼は、咳払いをして再び息を吸い込んだ。 「ぼ、僕の名――」  彼の口が開いた瞬間、再び近くに雷が落ちた。今度はさらに近かったのか、光ってすぐに雷鳴が聞こえた。 「僕のなーー!」  すかさず再び名乗ろうとした彼の声を、覆いかぶさるように落ちた稲妻がかき消した。 「なぜなんだ! 世界は元通りになったはずなのに」  三度も声をかき消され、彼は頭を抱えた。
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