1章

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「――殺人鬼を殺せ!」  扉が乱暴に開く音と人々の足音が重なり、私は階段室に続くドアへ視線を向けた。  おそらく、街の人たちだろう。指名手配されている殺人鬼が教会にいると知り、集まってきたに違いない。  このままでは、ジャックが殺される。その前に、ここから逃げなくては。だが、ここは2階で、出口はさっき上がって来た階段しかない。  逃げ道を考えていると、男の悲鳴が一階から聞こえた。断末魔のような声は、一人だけではない。繰り返し聞こえる人々の絶叫が、地獄のように次々と聞こえてくる。  いったい、なにが起こっているのだろう。 「また、人が死ぬ」 「死んでるかなんて、分からないでしょ。まずはなにが起こっているのか、確認しないと」 「やめておくんだ。僕たちが関われば、さらに被害が大きくなってしまう。このままだと、この教会が大量殺人現場になってしまうぞ」 「いったい、どういうこと?」 「僕に近づくと、人が勝手に死んでいくんだ。この呪いを知らないものは、きっと教会で死んでいる人を見れば、すべて僕の仕業だと思うだろう」  まさか、そんなはずは――いや、あの猟師は確かに不自然だった。  本来なら、猟師が映画で出てくるのは、教会に来る前だ。映画の筋書きどおりなら、私が逃げ込んだ森の小屋で殺人鬼に彼は殺される。  私がジャックを殺さなかったことで、筋書きが狂い始めているのだろうか。もし、ジャックの言うことが本当だとしたら、このままでは彼は大量殺人犯にされてしまう。 そんなのごめんだ。  私はジャックの背中に腕を回し、反対側の腕を彼のひざ裏に入れた。 「な、なにをする気だ!」  両腕に力を入れると、ジャックは声を裏返した。私は彼を横抱きにし、ステンドグラスが割れた窓に足をかける。 「私は、貴方の救世主になりに来たんだよ!」  そう叫ぶと、ジャックを抱えたまま私は教会から飛び降りた。
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