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 この世界に転生したと気づいたのは、五歳になったころだった。徐々に自我が目覚め始めたころ、私は運命の出会いを果たした。  我がハートフィールド家は、代々港町で貿易商を営む小金持ちだ。ハートフィールド家の古くからのお得意様のガードナー家には、私と同じ年頃の子息がいた。 「は、初めまして、エリノア……」  我が家で開かれた社交パーティで、ガードナー家の子息と私は、顔合わせをさせられた。  藁のような薄茶色の髪をした少年は、忙しなくヘーゼル色の双眸を動かしている。  彼の名前はジャック・ガードナー。顔色が悪く目つきの鋭い少年を見たとたん、五歳の私の頭に文字通り衝撃が走った。頭をハンマーで殴られたような感覚に、目の前がちかちかと白く点滅した。  私は彼を知っている。彼は、殺人鬼のジャック。この映画の黒幕だ。  まばゆい光が脳を駆け巡り、思い出したのは一本のホラー映画だった。 (私、ホラー映画の世界に転生したんだ)  しかも、転生したのはかつて熱烈に恋したキャラを殺す人間だ。  前世の私は、映画の殺人鬼が幼いころから好きだった。淡い初恋などではない。彼を崇拝していた。  映画のジャックは、幼少期からの度重なる不幸によって、人格形成が歪んだ――という設定だった。でも、きっと本当はそんな人ではない。彼の崇高な魂が分かる人がいれば、あんな悲劇は起こらなかった。もしも、私が映画の世界にいたなら、きっと彼を救える。 (私の願いが通じたんだ。これはまさしく、運命……!)  そのとき、私の世界が光り輝いた。  黒髪に赤目の主人公エリノアは、街でも寄宿学校でも嫌われ者のキャラだ。顔の右側にある赤黒い悪魔の形をしたあざに、血のような赤い瞳。誰もが、彼女を魔女と呼び、忌み嫌った。 (アザがあるから魔女なんて、バカじゃないの。それに、悪魔じゃなくてウサちゃんみたいな形で可愛いだろ。天然のタトゥーだっての)  すべてを思い出した私は、顔の右側にあるアザに触れて口元をゆがめて笑った。  そんな私を見て、ジャックがおびえたウサギのように首をすくめる。  ジャックはエリノアの幼馴染だ。魔女と呼ばれて嫌われていたエリノアは、殺人事件が起こっても蚊帳の外で、最後まで生き残る。そして、ジャックが犯人だと気づき、彼を殺す。  私はエリノア――映画のファイナルガールだ。私が殺人鬼ジャックを殺し、物語が終わる。 (ああ、なんて悲劇……! そして、なんて甘美な展開なんだ)  彼を生かすも殺すも私次第だなんて、笑いが止まらなくなる。
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