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「彼らが死んだら、君のせいだぞ」
「勝手に死ねばいいのに。その方が手間が省ける」
「なんてことを……!」
信じられないモノでも見たように、ジャックは片手で仮面を覆い、私から距離をとる。
「僕に近づかないでくれ」
「はいはい、分かりましたよ」
空いた手を突き出され、私は両手を上げる。これでは、どっちが殺人鬼だか分からない。
「殺してほしいって、懇願したのはそっちのくせに」
「懇願などしていない。僕はこの物語を終わらせたかっただけだ」
ジャックはぼろぼろのカーテンを閉め、目隠しをしていく。
カビの生えたカーテンが揺れる度に、不快な悪臭が広がり、私は顔をしかめた。
(こんなことしたって、意味ないのに)
ジャックの言うことが正しいなら、きっとこの小屋もすぐに見つかるはずだ。そうなれば、またさっきのような騒ぎになる。
そして人が死に、すべての罪がジャックに着せられる。私があの場所で彼を殺さなかったせいで、映画の筋書きが狂っていく。
私は一度開けた窓を閉めようとしたが、建つけが悪いのか、途中で動かなくなった。窓の隙間から吹き込んだ風が、鼻をかすめる。湿気た風は陰気だが、小屋の空気よりはマシだ。
腰に下げたポーチからマッチを出すと、なんとか暖炉に火をつけ、私はまとっていたマントを脱ぐ。皮の椅子にそれを敷いて腰を落とすと、ようやく一息ついた。
「仮面、はずさないの?」
窓際で外の様子をうかがっていたジャックに話しかけると、彼はそっとカーテンを閉めた。
「これは、外れないんだ」
「外れない?」
私が訊き返すと、彼は顔を覆う白い仮面に触れた。
白い仮面は殺人鬼ジャックのトレードマークだ。仮面を付けた男が、夜な夜な連続殺人を繰り返す。ラストに近づくと常に仮面を付けていたが、外せないなんて設定は聞いたことがない。
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